ジャカルタ水道労働組合と国際交流し、有意義な意見交換!

09.17

ジャカルタ水道労働組合と国際交流し、有意義な意見交換!

 全水道は、9月16日にインドネシア・ジャカルタの水道労働組合(DPP SP PDAM)を訪問し、ジャカルタの水道事情を共有するとともに、日本の水道法改正の状況報告なども併せ、ともに有意義な意見交換を行った。

 意見交換は、全水道の二階堂委員長の挨拶からはじまり、ジャカルタ水道労組の歓迎に対する御礼、これからの連帯に対する展望、全水道参加者の自己紹介などが行われた。

 これに対してジャカルタ水道労組のアブゥドゥル・ソマッド委員長は、「日本の水道に学ぶべきことが沢山ある。全水道の訪問を心から歓迎する」と述べられた。

 その後、ジャカルタ水道労組の参加メンバーの自己紹介があり、アブゥドゥル・ソマッド委員長より、この間のジャカルタの水道事業の実態や経過などが語られた。

 

 ジャカルタの水道サービスは、1989年に民営化され、ジャカルタを東西二地区に分割して東地区をテムズウォーター、西地区をスエズ社の前身であるスエズ・リヨネーズ・デゾーが運営管理する契約(官民連携いわゆるコンセッション)をスハルト政権下で結んだ。

 民営化から二十年経ち、未だジャカルタの水道水は、直接飲むことができないにも関わらず、とりわけアジア各国の中では高い水道料金となっている。

 45%だった水道普及率の向上も期待されたが、20年が経ってもなお59%という実態で、低所得層への水道アクセスは進んでいない。水道が接続されない市民は汚染された水源から水を得るか、独自で井戸を掘って水を得るため、ジャカルタの地盤沈下は平均年十㎝という猛烈な速度で進んでいる。

 独裁政権下で結ばれたこの契約は、自動的にジャカルタ首都特別州水道公社パム・ジャヤの負債が累積していくように巧妙に設計されているため、契約が終了する2023年にはパム・ジャヤの負債額が19億ドルに達すると試算されている。

 25年間の官民連携契約では、2008年までに水道接続を75%、契約終了時の2023年までに100%を達成することが運営企業に課せられた主要な目標であったが、この数値は度重なる交渉で下方修正され続け、市民の対抗運動も頻発したが、スハルト独裁政権下において、その活動は長らく政治的リーダーシップが不在のなかで混迷を極めた。

 このようななか、長年の取り組みを続けてきたジャカルタ市民は「ジャカルタ水道民営化に対抗する市民連合(以下KMMSAJ)」を結成し、労働組合・地域住民・学生・弁護士・ジャーナリストなどを束ねて根強い運動を展開し、2012年にはKMMSAJがジャカルタ首都特別州知事、大統領、財務大臣と民間水道二社を相手に、民間企業との契約を破棄しサービスを水道公社パム・ジャヤに戻すことを求める住民訴訟を起こした。

 KMMSAJの住民訴訟は貧しい人々の社会正義のために闘うことで知られるジャカルタ法律支援団体JBHや長年ジャカルタの水道民営化の調査をしているNGOアムルタ研究所などに支えられ、ついには2014年3月、住民側はジャカルタ地方裁判所で勝訴した。この判決は民営化を違法とし終結させること、水道サービスを公営事業体に返還することを命じたものとなった。

 その後、被告団の不服申し立てにより高等裁判所が地方裁判所の判決を覆すなどの苦難の道があったものの、水道民営化から20年が経過した2017年、インドネシア最高裁判所は、水道サービスの民営化を不当として、水道サービスを公益事業体の手に戻すことを州政府と中央政府に命じた。

 これによって二つの企業との水道サービス契約は無効となった。(ruling number 31 K/Pdt/2017)

 しかし、最高裁の判決を実行に移すには困難を極めている。水メジャーともいうべき民間2社との契約は、2023年までの25年間契約であり、契約を中断する必要があるが、それをだれがどのように行うかは政治的な仕事である。

 現在のジャカルタ知事であるアニス・バスウェダンは「最高裁の判決を尊重し」民営化を終わらせることに尽力すると公言し、2018年8月に法令を発行し、水道水統治評価チームを発足させた。チームはジャカルタ水道公社パム・ジャヤのトップ、市民団体や専門家で構成され、行政官が議長を務めた。評価チームは六か月の期間で、主に最高裁の判決に応えるために水道事業をどうするべきかの評価の役目を与えられた。

 水道契約を担う二社はこの20年の間、何度もその姿を変えている。2006年には英テムズウォーターが完全に撤退しアエトラ社となり、同年スエズはパリジャ社の持ち株を51%まで減らした。アエトラの社長モハマド・セリムは「契約は2023年の満了まで法的な拘束力がある」と主張し、最高裁の判決文さえ自分は読んでもいないと言い放ち、まったく取り合わない姿勢である。

 一方のパリジャ社のロバート・レリマッセイ代表は、最高裁の判決は契約を中止することなく、契約書の一部を変更することによって対応できるという立場を取り、言い換えれば、両企業は自身のジャカルタの民営化を死守するために政治的な圧力を維持し続けた。

 一方、ジャカルタ特別州議会は民営化を停止するために声を上げはじめ、超党派の議員たちは、最高裁の判決に従って民営化契約を停止し、上下水道の整備と改善のために動き出すべきと主張した。

 ジャカルタ水道労働組合は、ジャカルタ政府は最高裁判決に応えるための明確な政治的意思を欠いていると批判するとともに、組合員の生活と権利を守るために活動している。

 リサーチNGOのアムルタ研究所の代表ニラ・アーディヒアニ氏は「カードはジャカルタ政府が握っており、最高裁の判決を実施するために必要なのは政治的な意思のみだ」 と主張している。

 このような政治的な過程の最中に、2018年3月に中央政府の財務大臣が、最高裁の判決を覆すための行政措置を取ることを決めた。住民訴訟側の弁護士は、財務省が民営化を長引かせる時間稼ぎのための行政措置をこじつけていると批判したが、このような驚くべき事態が発生した。

 実は最高裁はすでに2017年4月に判決を出していたが、判決が公にされたのは10月である。この6か月間の出来事は不透明極まりなく、パリジャ社とアエトラ社はすでにすべての株を売却していた。2017年6月に、アエトラの所有者であるアクアティコの全株を、モヤ・インドネシアホールディングス(モヤホールディングアジア子会社)が取得したと伝えられている。モヤホールディンググループはシンガポール株式市場に上場する企業でサリムグループの支配下にある。モヤは最高裁の判決は自分たちの子会社の契約には及ばず、自分たちはアエトラを通じて水道ビジネスを続行すると主張している。また同じ期間にスエズは、パリジャ社の株を売却したとも言われている。

 このような混迷の中で、さらに複雑さを増す再公営化への道は続いているが、意見交換で確認した内容では、ますます水道の公営化への道は遠く、より厳しい事態が続いていると言う。

 水道水統治評価チームの報告書が2019年2月中旬に出来上がり、知事を含めて記者会見が行われたが、チームはジャカルタが一方的に契約を破棄すれば7140万ドルの違約金を請求される恐れがあり、それよりもパリジャとアエトラの株を買い取るか、二社と交渉して契約の停止を盛り込んだ新契約をする方法を勧告した。

 チームの勧告を聞いた上でバスウェダン知事は「ジャカルタ政府の立場は明確で強固である。ジャカルタの水道の整備をするために水道をただちに取り戻すことだ。1997年に結ばれた契約を正さなくてはならない。首都ジャカルタに清潔な水道を整備するという期待は20年を経て果たされなかった」と語った。

 しかし、実はこの発表の1ヶ月前(2019年1月)、インドネシア最高裁判所は2017年の自らの判決を「手続き上の理由で無効とする」という決定を、財務省の判決の取り消し要求の行政措置の結果において行っており、これをもって最終的にジャカルタ住民訴訟の敗訴は確実となった。法的に言えばジャカルタの水道民営化は完全な合法状態に戻ったことになる。

 

ジャカルタから学ぶこと

 名もない資金もないジャカルタ住民と彼らを支える人権弁護士やNGOがいなかったら、ジャカルタの問題ある水道民営化がこれほど国際的にも顕著になることはなかっただろうし、大企業をここまで揺さぶることは決してなかった。

 ジャカルタの水道民営化は、大企業と政治が結託した民営化を覆すことがいかに困難であるかを示している。事実、ジャカルタ水道労働組合(DPP SP PDAM)のアブゥドゥル・ソマッド委員長は、日本の状況を知った上で「決まってしまったら元に戻すのは極めて難しい。決まる前の闘いがとにかく重要だ」と語気を強めたが、経験した苦難がそこにあることは明白である。

 最大の教訓は、20年という貴重な時間と膨大な公的資金が費やされたにも関わらず、民営化は経済成長著しい大都市で水道普及ができなかったこと、運営権を持っている企業は次々を所有者を変えることである。

 2019年現在、進まぬ水道普及率、向上しない水道水質、さらには24時間給水もままならない状況で、依然として民間水道企業2社は水道事業運営を続けている。

 今回の意見交換を通じて、全水道はジャカルタの水道労働組合と連帯することはもとより、ジャカルタの市民社会はじめあらゆる国際市民社会と連携して、ジャカルタの水道再公営化を求め、こうした国際社会での情報共有や闘いの経験を通じて、その延長線上に日本の水道を守る闘いがあると確信した。

 意見交換では、朝9時に始まり、内容の濃い意見交換を行ったが、ジャカルタ水道労組に用意して頂いたランチミーティングまでの半日間は、友人となるには余りあるとても有意義な時間を過ごさせて頂いた。

 今回の意見交換に際して、国際公務労連(PSI)アジア太平洋地域委員会の皆様、PSIジャカルタ在住スタッフ、PSI東京事務所、PSI-JCの皆様の多大なるご協力により実現することができました。心より感謝申し上げます。

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