緊急事態宣言の発出に対する全水道の見解

04.08

緊急事態宣言の発出に対する全水道の見解

 本日、安倍首相は新型コロナウイルス感染症が拡大しているとして緊急事態宣言を行い、8日午前零時をもってインフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)に基づき感染拡大防止などの緊急事態対応を行う。この特措法は3月に新型コロナ対策を対象に加える改定を行ったもので、特措法による施策の発動にあっては、その際の手続き省略、権限の集中、権利の一部制限など、通常では行い得ない措置を実施するとされている。

 しかし、日本国憲法には緊急事態条項など、国家が非常時に発動する要件などは定められていない。このため特措法の適用は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある場合に限定されることはもちろん、実施にあたっては、国民の合意・納得を前提として、慎重な運用が行われなければならない。

 今般のコロナウイルス感染者は4月7日時点で累積4,354人、死亡者は同98人である。このことが本当に国民生活に甚大な影響があり、一部であっても権利制限を伴う緊急対応が不可欠な事態であることを国民合意とするためには、いうまでもなく発動要件を明確にした上で、感染者数や感染経路をめぐる科学的な情報、社会経済が被る影響評価、医療態勢についての能力評価など、具体的な情報開示が必要である。

 しかし今回の緊急事態宣言においては、十分な情報開示や説明が行われただろうか。検査母数も示さず、新型コロナウイルスによる感染症状がこれまでのコロナウイルスによる感冒症状と比較してどの程度危険なのか、重症化した感染者の年齢構成や持病の有無など、医学的あるいは防疫学的知見からの客観的事実を十分に示さず、断片的な情報のみで危機感を煽ってきたのではないか、そもそも可能な対策を怠っていないか、政権の恣意的、政治的判断に左右されていないだろうか。緊急事態宣言に至るこの間の政府対応に多くの疑念を残していると言わざるを得ない。検査体制の構築の遅れや結果公表の不十分性はかねて指摘されていたところだが、感染拡大防止施策の推進と並行して特措法の恣意的な運用を許さないためには、今後も引き続き国民の監視と批判が必要である。

 新型コロナウイルス感染症に限らず、あらゆる感染症は人々の健康と社会生活・経済活動を脅かすものであり、これを防ぐことは国・自治体の責務である。特措法においても水道やガスについて「安定的かつ適切に供給するため必要な措置を講じなければならない」(第52条)などとして「国民生活及び国民経済の安定に関する措置」を実施することとされている。感染拡大の防止として外出の「自粛」が頻繁に要請されているが、水道・下水道、ガス供給に限らず、公務員労働者、民間労働者であるかを問わず、社会インフラ事業に従事する労働者や、交通・運輸、食料品や日用品の販売に携わる労働者、そして医療関係者などは引き続き業務を遂行する。今回の緊急事態対応にあっても、こうした労働者に対する感染防止策をはじめとしたケアを決して疎かにしてはならない。

 また、緊急事態宣言に際し医療崩壊が危惧されるとしているが、これまでの公立病院などに対する効率化と称した行政改革が結果的に医療崩壊を引き寄せている。あらためて災害等非常時を想定した態勢確立や機能の強化を求めるものである。

 全水道に加盟する組合員は、水供給・水処理という重要な社会インフラ事業に携わる労働者であり、災害時や今般の感染症が拡大する状況にあっても、すべての人々に安全・安心な水を送り、使用した水の処理を安定的に行っている。すべての職場で職員・組合員の安全・感染防止策を講じた上で、緊急事態宣言に振り回されることなく、市民の水を守る決意である。

2020年4月7日

全日本水道労働組合

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