インタビュー

公務員連絡会 山本幸司事務局長に聞く

聞き手 書記長 佐藤幸雄

労働基本権確立、民主的公務員制度改革実現

1,000万人署名を総力で達成へ!

全水道は1人 5人以上の署名で底力をみせよう

 昨年12月25日に、公務員制度改革「大綱」が組合との誠実な協議を経ないで一方的に閣議決定された。政府は現在、6月までに基本設計、そして来年の通常国会に法案を提出しようとしている。労働基本権を回復し、「大綱」の撤回をめざし、連合、公務員連絡会はILOに提訴を行うとともに、この国のあり方を左右する公務員制度に関する1000万人署名で闘いを強化する。現状と取り組みなどを公務員連絡会・山本事務局長にお聞きした。

 

公務員賃金問題はどうだったか?

佐藤 本日は忙しいところをありがとうございます。第二段階を迎えた公務員制度問題は、正念場を迎えようとしています。

 そこで山本事務局長から、背景・経過、今後の取り組みを中心に全水道組合員に訴えていただきます。その前に2002春闘結果を踏まえた公務員賃金闘争についてお願いしたい。

山本 いま問われているのは、公務員労働条件決定制度をどうするか?の問題だ。これは公務員制度改革の以前に、今春闘が惹起している問題だった。労使交渉結果が議会でひっくり返される事態が、東京、鳥取で起きた。

 公務の定昇率、制度上昇値を考えると制度では民間準拠となっているので、官民格差で逆格差の危険性がある。労使対等の交渉で決める、という基本に立って闘う必要がある。

 日本の公務の労使関係は、包括的に基本権が制限されているのが特徴だ。憲法28条では労働3権が明記されているが、全農林の最高裁判決では、違憲かどうかは代償機能があるかどうかだ、といっている。制約した上での労使関係は制度としてどうなのか、にはふれていない。制度としてどうするのか、は切実な問題だ。

 

「新行革大綱」の背景と経過、問題点

佐藤 本題に入り、2000年12月の「新行革大綱」閣議決定で政治主導の名による公務員制度改革が強く打ち出された。背景、経過と対策本部で問題ありと指摘する点を上げて頂きたい。

山本 公務員制度改革問題は、2000年12月1日以前と以降で大きな違いがある。以前は公務員制度は行政改革の一構成部分として提起されてきた。いわゆる橋本内閣の6大改革の一部分であった。

 12月1日以前と以降で共通しているものと違うものがある。共通点は給与制度、新たな勤務評価制度導入へのスタンス、退職手当制度見直しなどの課題では一致している。違う点は2つあり、1つは人事院の権限を弱めて各省権限を強める、で公務の労使関係制度を変え、代表機能を低下させるという点だ。2つ目は、能力、実績を重視した給与制度や人事管理を行う為に国公法、地公法を作り直そうという点が特徴だ。

佐藤 「新行革大綱」閣議決定以降の経過と、これに対する対策本部としての取り組みについて伺いたい。

山本 12月1日以降は、まさに政治主導の名のもとに信賞必罰、民間と同じような人事管理を主張している。3月までに大枠、6月までに基本設計、秋以降は法案化作業をすすめ、03年の通常国会には新しい国家公務員法を提案する、としている。

 われわれはこれに対し、構成組織の委員長、書記長で公務員制度改革対策本部を立ち上げた。そして2つのアプローチをしてきた。1つは公務員労働者の賃金、労働条件が憲法で保障された権利が保障され制度が民主的に確保されるか否かだ。2つには制度改革は国民的議論と合意が必要であり、当事者のわれわれはこの議論に参加するのは当然だ。

 この取り組みを進めてきた。連合とともに署名行動、ILO提訴を進め、当初の政府のスケジュールを後退させた。賃金、労働条件は交渉課題であるから、引き続き「大綱」とりまとめは交渉・協議で行う、という政府見解を引き出すことができた。

 しかし、昨年12月25日に政府は「大綱」の閣議決定を強行する、という許し難い行為を行ったのが経過だ。

 

新人事制度の問題点は何か

佐藤 「大綱」で浮き彫りになった新人事制度の内容と問題点について指摘をお願いしたい。

山本 公務員制度ってわかりにくいですね。簡単に言うと入り口が採用制度、出口が天下り、中間が服務規律、給与、任用だとかをどうするかが公務員制度の中身だと思う。

 入り口を今までは人事院がやっていたのを任命権者がやる。そして採用予定人員の4倍からの採用を行えるようにする提起がされているが情実人事につながる。

 出口の天下りは事実上大臣承認制にするが、事実上は官僚がお手盛りになると言える。真ん中は、今回は、職務給原則は止めて、能力に見合ってポストにつけるという最大の特徴がある。

 推進本部の出した資料では2級の定額部分を加算部分を足した額が、3級の定額部分を遙かに上回っている。能力給は級が上がらなければ給与は上がらない、というのが考え方ですから制度としては整合性を欠いている。

 加算部分をどうするか、能力評価で行うのではなく。業績評価で行う、としている。これも分からない。また、能力に基づいて厳しくやる、というなら指定職にこそ厳しくやるべきだが、この層には能力主義を適用しないのだ。矛盾に満ちた制度である。さらに、1回の試験でキャリア形成、走る道が決められてしまう。採用試験別、入省年次別の今のローテーション的な人事管理は批判されているにもかかわらず、一切手を着けない。

 手続き上の問題では、外務省不祥事と全く同じで、一部特定議員と一部官僚が癒着、結託して世の中を動かしている、と言える。

佐藤 お話にあるように問題の多い内容だが、閣議決定され、第2段階に入っている。いま国会の中では、様々な問題が露呈している。

 とくに政治家と官僚、官僚の特権的な体質が出ている。推進事務局の進めようとしているのは、問題にさらに拍車を掛けようとしているのではないか?

山本 一連の官僚による問題は、目に余るものがある。外務省問題やBSEは10年も放置されてきた問題など官僚主導の弊害は、抜き差しならないところにきている。

 「大綱」については5つの判断・評価ができる。@労働組合と交渉、協議でまとめられたものなのか、A人事院の機能を弱め、各府省大臣の権限を強めるなら、憲法に明記された労働基本権について「大綱」でどう扱われたか、B能力、実績重視に新たな給与制度、評価制度導入というなら基準を明らかにし、労使対等の苦情処理委員会を作る。評価制度にかかる4原則2要件を満たすこと、Cキャリアの特権性を改革するような内容は全くない、D「大綱」は国家公務員の行政職を対象にし、準じて他の職種、地方公務員にもやる、といっている。

 しかし、国公、地公の置かれた状況が全く違うが、それを踏まえて改革案が作られたのか、だ。しかし、全てについてノーと言わざるを得ない。

 現在、政府部内で法案化作業が進められているが、われわれは原則を貫き、法案撤回で取り組みを進めている。院内外、国際的な連携を強め総力で闘う。連合、民間労組の支援を得、国民的な運動に発展させたい。

 

地方公務員制度の改正は?

佐藤 組合員にとっては、地方公務員制度についても関心を持っている。昨年12月の「大綱」では国公法、地公法を同時に改正するといっている。

 しかし、この間、一切の議論の経過がない。公務員部との交渉もスタートしたが、今後どのように運動を進めていくのか。

山本 地方公務員については、国と地方の基本的な違いを踏まえて、十分議論を踏まえた改正案をまとめるべきだと申し入れた。これまで、地方公務員制度調査会で報告をまとめられた成果などがあり、それとの整合性のあるものにすべきだ、と言ってきた。

 地方公務法にも能力・実績を導入するなら、これまでの研究は間違っていたのか、あるいはここ数年で情勢が激変したのかの総括を出してもらわなければならない。

 タイムリミットに合わせて法案作成を行うことは絶対に認められない。

 

秋に向けて5つの戦線で

佐藤 この秋に向けた取り組み方針が決定しましたが…。

山本 第1ラウンドでわれわれの要求は実現せず、引き続き運動を強化している。来年の通常国会には新しい国公法、地公法の提案がある。

 そこでの闘いで、20年、30年先の公務員制度のあり方、公務員の労働基本権が固まってしまう。運動の最大の山場をそこに設定する。5つの戦線で運動を展開する。

 @職場を基礎とした大衆的な運動で、440万人公務員で1000万人署名を集める、A民主党、社民党、自由党のみなさんに、野党共同案をとりまとめ国会で、BILOや国際労働団体に共同提訴人になって頂いて推進。勝利できるかどうか各国への影響が大きいCマスコミに対しての働きかけ、D政府は、勝手に法案作成作業をやっているから、これに対して執拗に交渉・協議を申し入れ、ストップをかける。以上5つの取り組みを進める。

佐藤 5つの取り組み課題が提起され、すでに野党は共同歩調で取り組むことが確認され、ILOにも提訴して受理され、先日もPSIのハンス書記長が見えて支援を約束された。

 日本の権利闘争、ILO闘争は近隣諸国にも大きな影響がある。ただ、昨年6月のILO提訴の経過を見ると、政府は国際公約の約束を守ってこなかったので、ILO闘争をどう位置づけるのかという疑問もある。

山本 おっしゃるように、ジュネーブから青い鳥は飛んでこない。決着は国内でつけるしかない。ILO勧告を日本政府が無視をすることもある。

 しかし今回のILO闘争では2つの特徴がある。@ナショナルセンターとして初めて提訴したこと。国際労働団体も全面支援態勢だ、Aこの国の公務員制度そのものの提訴であること。ドライヤー勧告にもあるように日本の国公、地公制度はILO基準に違反しているというのがILOの見解だ。今回50年ぶりに大改革するが、このまま進められればさらにもっと悪くする。

 国内の運動を国際的は支援で前進させるために大衆運動として取り組む。

 

大衆的な運動へ拡大、発展を

佐藤 職場を基礎としての大衆行動の決意は分かりました。全水道としても諸先輩が汗と血を流してきた闘いに決着をつける決意で取り組みたい。

 大衆運動とりわけ1000万人署名は、全水道に16万筆という署名要請がありなんとしても達成させるため、今後、組合員・家族・OBをはじめ多くの仲間の協力を要請する。

 最後に、事務局長から全水道組合員に対策本部事務局長としての決意をお願いしたい。

山本 右肩上がりの時代が終わり、人、もの、金、情報が瞬時に国境を越えて飛び交う時代となった。かってない高齢社会への移行、国、地方で天文学的数字に達した財政赤字、IT革命といわれる先輩達が経験したことのない社会への変化。その上に立つ制度が制度疲労を起こしていることは事実。

 連合もわれわれもシステム改革は必要だといっている。先輩、市民、勤労者のみなさんと手を取り合って、制度を変えるための取り組みを成功させたい。

 要求の第1は、ボタンの掛け違いで強行された「大綱」を先ず撤回し、公正で透明な公務員制度改革案を開かれた論議の中から作ること。第2は案の中に、キャリア制度はもうやめて、天下りは全面禁止をすることを制度化する。第3に労働基本権を保証することだ。

 そういう意味で、全水道のみなさんには、文字通り職場に基礎を置いた精力的活動を行うという点では誇るべき伝統だと思いますので、最先頭に立って活動を進めて頂きたい。