水道法改正を受けて取り組むべき課題と対応の方向
 
全日本水道労働組合   
書記次長 水越  隆
 
 
□インデックス
 1.はじめに
 2.水道事業を取り巻く情勢
  (1)国際的な動き
  (2)国内における見直しの経過
  (3)国内における動き
 3.水道法改正のポイント
 4.水道法改正下における課題と対応の方向
  (1)水道法の改正に関する課題と取り組み
  (2)改正水道法の実施に向けた課題と方向
  (3)水基本法の制定に向けて
 
 
 
1.はじめに
 
 水道法の改正を受けて今厚生労働省は、来年4月1日の同法施行に向けて政令・省令の検討から公布に向けた準備作業を行っている。
 このうち政令については、すでに厚生労働省案に対する意見公募も終了し、12月14日の閣議で決定して公布する予定になっている。また省令については、11月26日から12月25日まで意見公募が行われており、年内にも公布をする予定となっている。
 一方公務部門を取り巻く状況は、行政改革・規制緩和が一段と進み、国の業務については企画・立案部門と実施部門の切り分けも済み、実施部門については独立法人化?民営化の流れが大きく動き出している。また地方においても、昨年12月1日に出された行政改革大綱を受けて、行政系の現業業務(清掃・病院・図書館など)、公営企業などのあり方の見直し改革が国に準じて検討されている。とりわけ小泉政権発足以降は、構造改革の中心に「民間でできるものは民間で」と言う路線が位置付けられていることから、国・地方を含め、公務サービスの民営化を推進する動きがが大きく進む情勢にある。
 このような路線の下に、官(内閣・総務省など)・民を問わず、水道法改正の趣旨や法解釈をねじまげた水道事業の民営化圧力は強まっている。とりわけこの背後には、フランスのビバンディ社、オンデオ社などの巨大な国際水道企業の存在があることを忘れてはならない。まさに今、日本の国民が有する「安全で安価な飲料水の供給をうける権利」、水道事業の「公営原則」が侵され兼ねない重大な局面にあり、水道事業に働く労働者にとっては事業の民営化をさせない取り組みが最大の課題であるだろう。
 このような情勢を踏まえ、当面の取り組みとしては、ア.水道法改正の趣旨を労使(各市町村首長を含む)徹底的に確認し合うこと、イ.改正水道法の趣旨・内容に基づく事業の運営・推進を積極的に図ること、ウ.水循環系の再構築のための施策の実行と水基本法制定に向けた取り組みを推進して行くことなどを通じながら、水道事業の民営化をさせない体制を確立してゆくことが問われている。その意味では、政・省令が確定する段階となった今求められているのは、水道行政を所管する厚生労働省の任務と役割に期待すると言うことではなく、分権化時代における自己責任を果たすことが問われていると言え、地方公共団体、水道事業関係者がその責任・役割を自覚し、「安全で安価な飲料水を供給する」水道制度を守り発展させるための取り組みを積極的に行ってゆくことが必要である。
 以上のような立場から、水道事業を取り巻く情勢、水道法改正の趣旨と内容のポイント問われている課題と取り組みの方向性について改めて提起をするものである。
 
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2.水道事業を取り巻く情勢
 
 
(1)国際的な動き
 現在の国際的な水道企業では、フランスのビベンディ社、オンデオ社(旧リオネーズデゾー)、イギリスのテムズウォーター社などが世界で最も大手の企業であると言われている。特にフランスにおいては、水道事業経営を古くから民間企業に委ねてきたことから、ビベンディ社やオンデオ社などの企業は、水道事業経営のノウハウの面での蓄積や実績もあり、IMFや世界銀行との繋がりも深く、早い段階から世界進出を果たしてきた企業である。
 東西冷戦構造の崩壊を受けて、世界市場をめぐる競争が激しさを増し、グローバリゼーションが世界を席巻することとなった90年代に入り、先進資本主義諸国は一様に高コスト構造の縮減を目指して行政改革・規制緩和に乗り出し、公務サービスの民営化を推し進めてきた。また一方、70年代から80年代にかけて急速に経済発展を遂げてきたいわゆる中進国においては、グローバリゼーションに翻弄されて通過危機などを引き起こし、IMF・世界銀行などからの経済支援を受けることになったが、電気・水道などの公共サービスを民営化することが条件として約束させられてきた。このため、経済支援を受けることとなった国においては大きく民営化が進む事となっている。
 ここ数年で実施されてきたマニラ、ジャカルタ、タイにおける水道の民営化は、経済支援の条件として約束させられたための民営化であり、韓国においても約束の実行が今迫られている。また、オーストラリア・ニュージーランド・アメリカの一部都市の水道が民営化をされているが、これらは、地方政府の財政難から行政改革の一環として実施がされているものである。
 このような国々における民営化の方法は、いわゆる「公設民営化」が主流で、事業運営が民間企業に委ねられる方式である。その場合でも、単に経営についてのみ委託契約を結ぶ「マネージメント契約」(BOO方式、ビルド・ワン・オペレイト)の方式、水道事業体を営利事業体として株式を発行し、株を取得した企業が経営にあたる(BOOT方式、ビルド・ワン・オペレイト・トランスファー)方式の2方式が取られている。
 株式を発行するタイプは、経営に関してはほぼ完全民営化に近いわけだが、半分の株は公が持ち、形式上の公的管理を担保したものとなっている。
 上記に示したとおり、先進国が一様に競争政策を導入する一環として公務サービスの民営化を推進する状況にあること、地方政府の財政危機乗り切りの方策として公共サービスを民間に売却する動きが広がってきている状況、さらには、フランス、イギリスの国際的な水道企業が買収を狙って営業活動を強めている状況があることなど、国際的な動きとして押さえておくことが必要である。特に日本においては、国・地方を含めた借金が600兆を超え、さらに、小子高齢化に対する施策の推進と財源の必要性を考えれば、国も地方も、この借金から逃れ身軽になりたいとの誘惑にかられる状況ができあがっていることについては十分な警戒が必要である。
 
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(2)国内における見直しの経過
 公共サービスのあり方を見直す作業は、90年代初頭から始まったもので二つの流れがある。
 
 一つは、東西冷戦構造の崩壊を受けた世界市場めぐる競争の激化の中で、産業構造改革の一環としての規制緩和と行政のスリム化を目的に、国・地方を含めた行政全般に渡った見直しの検討を開始した流れである。この時期には、イギリス、ニュウジーランドにおいて公共サービスの大胆な民営化が実施をされており、世界中の注目を浴びることとなっていたことから、旧自治省が0の段階からこれらの国の民営化の実態調査を行い、見直し検討の基礎としたと言うことがある。
 今日の国における各省の業務を企画・立案部門と実施部門に切り分け、実施部門の独立法人化を進めるモデルとなったものは、イギリスのエージェンシー制度である。
 
 二つ目は、産業競争力を高める観点からの見直し検討であり、産業活動の基礎的条件となっている「公共料金分野」にいかに競争導入を図るかと言う視点からのの改革の流れである。
 水道事業は、「公共料金」であると同時に地方公共団体が直接経営する公的サービスでもある。その意味では、行革・規制緩和の流れと公共料金分野の改革と言う二つの流れ、つまり旧自治省と通産省・経済企画庁に関わる見直し検討対象として同時平行的に見直しがされてきたのである。
 このように、水道事業のあり方の見直し検討については、水道事業の置かれた現状や課題を踏まえ、それを前進的に解決してゆく方向で検討が開始されたものではなく、主に日本経済の競争力強化、高コスト体質の解消、国の水道行政のスリム化、地方における財政基盤の確立など、経済的側面からの見直しであったのである。
 
 このような流れが大きくなる情勢の下で旧厚生省は、水道水源の水質悪化の進行、安全な水供給のためにはさらにコストが増加せざるを得ない日本の水道制度上の問題、10倍にも及ぶ料金格差の存在など、日本の水道事業が置かれた現状や課題を踏まえることなく、単に経済的側面から見直しが検討されていることに危機意識を持ち、98年6月に「水道基本問題検討会」を立ち上げ、21世紀における水道のグランドデザインを設計することとしたのである。その意味では、この「検討会」の基礎には現行水道制度を守ると言うことが明確に位置づけられていたと言えよう。したがってこの「検討会」では、一部「民営化論」を展開する意見や清浄・低廉・豊富と言う水道事業の目的から豊富を削除する等の意見もあったが、21世紀においても水道事業は引き続き「人の飲用に適した水を供給する」ことを任務とすること(ナショナルミニマム)として確定した上で、新たな水源開発は止め、節水型社会を目指すこと、水質基準の強化は避けられないこと、用水供給事業の役割は終了したとの認識に立ち、今後は末端給水までを実施してゆく方向にいくべきこと、水道事業が全国的にも施設の更新時期を迎えており、一方では、水質基準の強化に対応した施設整備も必要になっている中で、事業体の技術基盤・経営基盤を強化する必要があること、そのためには水道事業の広域化は避けられないこと、また、水道行政所管としては、従来の施策であった「水源開発中心の財政支出を見直し」し、水質検査や施設の整備・更新を中心とした施策に変更してゆく必要があること、水循環系の再構築に向けて行く必要があること等を「最終報告」としてとりまとめ、答申された経過となっている。
 この「検討会」がまとめた「最終報告」を基礎に、水道の制度上の課題についての見直しが「水道部会」で論議され、今回の水道法改正となったものである。
 このような流れ・経過からして、今回の水道法改正は「民営化を推進する」と言うような性格のものではなく、むしろ、フランスなどの海外の水道大手企業の存在を意識し、現状の日本における水道制度を守り、発展・強化することを目的としたものであることをしっかりと認識する必要があるだろう。
 
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(3)国内における動き
 今回の水道法一部改正の論議経過を受けて、一部マスコミは「水道事業民営化へ」などと囃立てる一方、水道関連民間企業は、水道事業体からの業務受託、事業運営への参入に向けて受託企業を立ち上げてきている。
 96年、中国の水道事業への参入のために、丸紅商事とフランスのビベンディ社が共同出資の合弁会社を設立して以来、外資系では、フランスのオンデオ社が子会社の東京事務所を構え、イギリスのテムズウォター社が三井物産と共同出資の合弁会社を設立している。国内企業では、三菱商事と日本ヘルス工業がジャパンウォター社を設立し、クボタと日水コンがトップスウォター社を設立しているほか、日本上下水道設計と荏原製作所がJ・TEAM(ジェイ・チーム)を設立している。
 これらの企業は水道事業体に対して、業務受託をするべく営業活動を強化している。とりわけ日本企業については、今回の水道法の改正のポイントとなっている「第三者委託を制度化」したことに目をつけ、「法改正の趣旨が事業体間での包括的な技術的業務の委託制度である」ことを百も承知の上で、民間企業が受託者となるための様々な動きを行っている。
 具体的には、第三者委託制度における受託者の要件として「水道技術管理者の設置」が定められていることから、業務の受託を可能とするために「水道技術管理者」の資格取得に動いている。
 現在実施されている「水道技術管理者」の資格付与の仕組みについては、日本の水道事業体の現状を踏まえ、日本水道協会がやむを得ず2週間程度の研修を実施することで資格を付与する方法がとられている。
 その理由は、水道事業者には必ず「水道技術管理者」を置かなければならないと定められている一方において、日本の水道事業は「市町村公営原則」であることから小さな事業体が圧倒的に多く、これらの事業体においては、事業管理者などの事業者のトップに水道技術管理者の資格要件を満たす水道業務経験者がいない場合が多く、しかも、交替も早いと言う現状から、やむを得ず2週間程度の研修を実施し、「水道事業管理者」の資格を付与している実情がある。
 このような実情の下で実施されている「水道技術管理者」資格付与のための研修に対して、突如として民間企業が大挙して研修に参加し、資格取得に入っているのは水道法改正を睨んだ動きであることは紛れもない事実である。また最近の動きとしては、厚生労働省が日本水道新聞などを通じてメッセージを発し、包括的な意味での技術的な業務の委託を可能とさせたこと、民間企業にはこのノウハウはなく、したがって事業体間での受委託を想定したものであること等の水道法改正の趣旨や改正内容の本旨を明確にし、それが定着してきていることを踏まえて、脱法行為とも取れる動きをしめしていることである。その内容は、商社をまとめ役に、電気・機械などのメンテナンス会社や個別業務の受託経験をもつ企業、ゼネコンなどのを組み入れ、ジョイントベンチャー(JV)方式での企業を立ち上げて、技術的業務の包括的な受託を目指そうとする動きである。つまり、日本の水道制度が「市町村公営原則」であるために、小規模事業体が圧倒的に多く、必ずしも十分に機能発揮がされていない現状を利用し、水道法改正の内容を掘り崩す動きをしているのである。
 民間企業は利潤追求が第一義であって、業務受託の狙いはスケールメリットの働く中・大規模の事業体における業務受託である。
 このような日本企業の動きは、小規模事業体における事業経営における困難さや、そこから発生する不十分さを利用し、結果的には、水道事業における「公営原則」の堰を切る役割を果たそうとするものに他ならない。
 「公営原則」の堰が一端切られてしまえば、日本企業がどんなに水道事業への参入を果たして利潤の確保を目指そうとも、水道事業経営での長い実績、ノウハウを持ち、IMF?世界銀行などとも連携して資金力もあって世界進出をしているフランスなどの巨大な国際水道企業との競争に勝てる状況にはないと言えよう。
 したがって、「公営原則」の堰が切られるような事態になれば、日本の国民の「飲み水」が外資によって支配される現実が突き付けられることをしっかりと押さえる必要がある。 そして今、一歩対応を間違えば、その危機が現実に迫ってくる情勢にあることをしっかりと踏まえることが必要である。
 
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3.水道法改正のポイント
 
 水道法改正のポイント点は、ア.第三者委託を制度化し、経営基盤のしっかりとした事業体が広域的に水道施設を管理することができるようにすることによって、「安全な水供給」を制度上確保する体制を整備したこと。イ.水道法の非適用施設であった簡易専用水道に対して、「安全な水供給」の観点から、保健所行政よりも厳しい水道水質基準の適用ができる水道法の適用施設としたこと、また同様の観点から、設置者責任であった受水槽について、設置者責任と共に水道事業者の関与について明確化を行ったこと、ウ.水道事業者の利用者に対する説明責任(アカウンタビリティ)として、水質やコスト、事業計画などの情報公開を義務づけたことである。
 これまでの水道法では、その目的として清浄・低廉・豊富を規定している。つまり、人の飲用に適した安全な水をより安く豊富に供給することが規定をされてきた。また、水道の施設等についても、「用語の定義」において、浄水施設から末端給水までの施設総体をもって「水道」と言うと定義されており、安全な水供給に必要な浄水施設や管渠は水道事業者が責任をもって管理するものと解釈されてきた。したがって、施設を建設する段階から出来上がった施設の管理について、他者に委託することができないものと解釈されてきたのである。
 このような解釈から、現状でも部分委託はあっても、トータルに委託することは不可とされてきた。
 今回の第三者委託の制度化は、小規模水道事業体の技術的・財政的基盤が十分とは言えず、「安全な水」を供給する上での体制が十分とは言えない状況にあることから、大きな事業体に技術的業務を包括的に委託することを可能とさせることによって、安全な水供給体制の確保を図ることにしたものである。その意味では、他者ではあるものの、「水道」の用語の定義の解釈を若干変えることで、水道事業体間の受委託を想定しているものの、水道の技術的業務を包括的に委託できるようにしたものである。しかし現行の水道法は、民間経営を基本的に否定したものとなっていない法の原則があることから、改正水道法や政令・省令でもあらかじめ民間企業を第三者委託の受託者から排除する文言を書き込むことはできない。したがって、再三指摘している通り、水道法改正の趣旨と制度化した内容の本旨を徹底し、第三者委託における資格要件を明確にすること以外にないと言える。そのために改正水道法では、その資格要件として、水道技術管理者設置の義務付け、技術的・経営的基盤の問題などが条件として記されているのである。その意味では、今後公布される政令・省令に何を書き込み、法施行に伴う通知などに何を書き込むかが極めて重要になってくると言える。
 
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4.水道法改正下における課題と対応の方向
 
 “はじめに”の項でも触れている通り、政令・省令が確定する状況下にあって、我々が何をなすべきかが問われていると言える。その意味で、現在の情勢を踏まえ、問題の所在を明確にし、水道事業に関わる関係者が個々にその任務と役割を整理して取り組んで行くことが重要である。
 第一は、水道法の改正に関する事項として、政令・省令が確定したとしても、改正水道法の趣旨や改正内容に照らして十分とは言えない内容の補足をどう補ってゆくのかと言う問題がある。また、改正水道法の下に、実施サイドである地方公共団体、水道事業者には、改正水道法が求めている貯水槽水道に関する供給規定の改正をどうするかと言う問題がある。第二には、改正水道法の趣旨、その本旨を踏まえ、どう実施してゆくのかと言う問題がある。第三は、水循環系の構築と水道行政の一本化に向けてどう取り組むのかと言う問題がある。
 これらを個々に問題点と取り組みの方向を示し、組織的な対応が必要である。
 
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(1)水道法の改正に関する課題と取り組み
 水道法の改正にともなっては、政令・省令の確定とその補足事項としての施行通知、指針の確定、省令を踏まえた実施サイドの規定見直しの2つの課題が残っている。
@水道法の改正に伴う政令・省令については、別紙の通りであり、このことについては年内に内容を確定して公布する予定である。
 全水道はこれまで、政令・省令に関し、事前に厚生労働省との話し合いを行う一方、パブリックコメントに対しても組織的に意見発表をおこなってきた。
 その結果、政令・省令の性格からして、細かい内容は規定できないことから、それらの内容については、法施行後の状況を踏まえて施行通知や指針などに反映することを厚生労働省と確認している。
 このように、第三者委託に関わる要件などを政令・省令に盛り込むよう固執しなかったのは、今政府が、「構造改革」を目指し、公務サービスを民間に委ねることを推進する状況下にあって、厚生労働省に圧力をかけ、規制措置を法文上明記させようとしても、むしろ逆効果にしかならず、厚生労働省の手足を縛り兼ねないと判断したからである。したがって、民営化につながらないよう、施行通知や指針の検討段階で個別に協議・話し合いを行い、全水道としての意見反映して行く立場である。
 そのような立場から、今後組織内での十分な検討を行うと共に、日本水道協会とも協力しながら、対策施行通知や指針作成に関与し、第三者委託に関わる要件などを十分なものとして行く方向で対応して行くことが必要と考えている。
A貯水層水道に関わる供給規定については、省令に記載されている幅で関与することを基本とし、それに伴う費用については設置者の負担として検査費で徴収すること、できる限り直営で実施することを全水道の基本的な方向として整理し、日本水道協会ともすり合わせを行いらがら、供給規定のモデルとなるようなもの作り上げる努力をして行く必要があると考えている。
 
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(2)改正水道法の実施に向けた課題と方向
 改正水道法の最も大きな改正点は、第三者委託の制度化による水道の広域化である。
 法改正がされた今日、法に照らして実施して行くことは地方公共団体、水道事業者、水道事業体に働く労働者を組織する労働組合の任務である。
 この最も大きな改正点を実施して行く場合、いわゆる大きな事業体には、改正水道法の趣旨、改正内容の本旨に照らし、業務の包括的な受託、つまり、広域化に向けて積極的に推進する役割が求められ、委託を想定しているいわゆる小さな事業体においては、利用者サイドに立ち、「安全な水供給の確保」の観点から、それが確保できる受委託契約を結ぶことが求められる。
 各地方公共団体、事業者には、改正水道法の趣旨や改正内容を理解することなく、「面倒な小さな事業体の業務は引き受けたくない」とか、技術的業務の包括委託を可能とさせた改正内容を曲解し、「すべての業務が委託可能となった」等の理解によって、業務委託の拡大に動く状況も存在している。
 今回の法改正において、第三者委託を可能とさせ、広域化に向かう方向を示した背景には、水道水源の汚染が拡大、水道水質基準の強化が必至な状況の下で、日本の水道事業体の圧倒的多くの小規模事業体が技術的・財政的基盤が弱いことから、「安全な飲み水を供給する」ことが困難になりつつあると言う「公営を原則」とした水道制度そのものが崩壊し兼ねないことに対応する必要があった。
 こうした改正法の趣旨からして、大きな事業体が包括的に技術的業務を引き受け、広域化を進める立場に立たないとすれば、民間事業者に頼らざるを得なくなるのは当然で、水道事業者自らが「公営原則」の撤廃、民営化の道に道筋をつけることになるのである。
 その意味で、地方公共団体、水道事業者に改正水道法の趣旨や本旨を説明し、広域化の推進と民営化を阻止する立場に立たせる役割は、全水道組合員がこの現状を理解し組織的にも固く意思統一し、労使交渉などを通じて首長や当局管理者と意思疎通をはかることが必要である。
 全水道本部は、事業団体である日本水道協会と十分な協議を行いながら、このような広域化から取り残される事業体がないよう、厚生労働省や都道府県に対応してゆくことが求められている。とりわけ、市町村統合が進む状況などを踏まえ、全水道組織内での中央政策推進委員会などを活用しながら、全国的な広域化マップのようなものが作成できるよう努力をする必要があると考えている。
 また、第三者委託制度における委託サイドに立った契約のあり方、契約に規定すべき事項などについても、単に「当局サイドに任せておけば良い」と言う立場はとらず、組織内での十分な検討と日本水道協会との協議・調整が必要であると考えている。
 
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(3)水基本法の制定に向けて
 今日の水道事業運営においては、水道水源の汚染拡大?水質基準の強化?高度処理を含むさらなる施設整備と言う循環は、料金高騰の要因でもありもう繰り返すことができないと認識している。
 このような現状を踏まえ、「水道基本問題検討会」の結論としても「水循環系の機能を回復」させることが課題であるとされている。
 「水循環系」の機能を回復させるためには、水に着目し、自然環境を目的意識的に良好に保つための施策を実行してゆくことが必要だが、日本の水行政は、5省9局にまたがり、それぞれの立場から施策が行われているのが実態であり、実行性のあるものとはなっていない。
 このような状況から、水基本法を制定し、それを基本に各分野で施策を実行してゆくことによって、水循環系の機能回復の実行性が上がるものと考えている。しかし、この法律をどの視点で制定するかが極めて大きな問題として残る。それは、水循環系と言っても、山から海まであるわけで、森林管理の視点、河川管理の視点、水を利用する水道からの視点、下水道からの視点などである。
 全水道は言うまでもなく、水道の視点から基本法を立て、すでに案をだしているところであるが、連合政策では、当面はこの視点を明確にすることなく要求化しており、3月22日の国際水の日に「水基本法」制定に向けた講演とバネルディスカッションを計画している。
 全水道は、全水道案を連合の中で主張して行くが、固執することなく、当面は水基本法の必要性等が広く国民の理解を得、社会的にも認知される方向に進ませる必要があると考えている。その上で、具体的な立法化の段階を見据え、社民党、民主党へは全水道案の内容を説明する努力を行って行くことを考えている。また、水基本法の制定に向けた運動の広がりの過程においては、「水源税」などに対する全水道の考え方が問われてくるものと考える。
 このことについても、前回の「水源税問題」のように、「反対」の立場を貫けばこと足りる情勢にはないと考えている。
 こうした事を踏まえ、改めて水基本法全水道案及び「水源税」問題などについての組織内論議を深めることが必要であると考えている。
 いづれにせよ、現在の水道事業を取り巻く情勢は厳しく、課題も山積しており、全水道組織の統一と団結を固め、組織が一丸となって対応が求められている。
 全水道本部は、組合員の期待に応えるべく、各地本・単組の皆さんと良く相談しながら、誤りのない対応をして行くべく努力をして行く考えである。
 
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