水基本法要綱(素案)
 
全日本水道労働組合
 
 
◇ 前文
 
 水はすべての生命に欠かせないものであり、水の汚染と水の不足はすべての生命の危機である。水は大気、海、陸地をめぐる水循環を形成することによってすべての生命にもたらされる。良好な水循環は、陸地においては水環境すなわち水域の水質、水量、水辺空間、生態系、土壌さらには景観などが保全されることによって保たれる。良好な水環境は、清浄な水、生態系の保全、水利用の効率化と保全によって保たれる。良好な水環境は、現在の世代および将来の世代が、安全で健康に良好な生活を維持できる持続可能な社会の基盤である。
 また清浄にして豊富低廉な水を供給する水道事業と、公共用水域の水質保全をになう下水道事業は、水循環の一環であり水循環をはなれては存立できない。すなわち水道、下水道の水事業の存立は持続可能な社会の基本である。
 しかしながら、わが国では大量生産・大量消費と大量廃棄、河川開発、水源開発は水環境に大きな負荷をあたえ、水質の悪化、生態系ヘの悪影響、湧水枯渇、河川流量の減少、地盤沈下、都市における水害と渇水等の問題が発生している。
また地球の人口の急増と水需要の増加は地球規模の水の汚染と水不足を加速し、水をめぐる不平等は拡大しつつある。
 われわれはこの現状を認識し、21世紀において人の生活と自然環境に十分な水が確保し、持続可能な社会を確立し、水環境の保全と回復のために、水環境全体を統括する総合的な水施策の基本理念を宣言する。
 同時に、この施策を真に国民的に実行するために、施策の情報公開および意思決定への公平な参加を確立する地域主権と、良好な水環境の享受は権利として保障されなければならない。
 これらを通じ、地球規模の水環境の保全と回復に寄与し、平和と安定に寄与するために、この法律は制定される。
 
 
◆ 総則
 
第1(目的)
 この法律は、表流水(河川・湖沼)、地下水、領海内の海水、湿地、河川上流水源地、水辺地を対象として、健全な水循環の構築を図りつつ、水質、水量および自然生態系など水環境の保全と回復に関して水政策の基本となる事項を定め基本理念を定める。
 並びに国、地方公共団体、事業者および国民の水についての基本理念に係る責務を明らかにすることにより、水環境の保全と適正な水利用のため、水政策を総合的に推進し、国民生活の安定と福祉向上に寄与することを目的とする。
 
第2(基本理念)
 水環境の保全と回復する水政策の総合的推進は、次の各号に掲げる水についての基本理念のもとに、行わなければならない。
1.水は、国民の共通財産である。国民生活および自然生態系の維持と活動にとって不可欠の基盤であること、現在および将来の国民のための限られた資源であることにかんがみ、健全な水循環の構築と水量、水質および自然生態系など水環境を保全することは、国土保全の要であり公共の福祉である。
2.水の利用および管理は、水循環の中にあって他の利用および公共の利害と関係するものであることにかんがみ、健全な水循環の構築と水量、水質および自然生態系など水環境の保全と調和するものでなければならない。
3.水は流域を基本に広域的に利用および管理することを原則とする。
4.表流水および地下水の使用権は万民に帰属する。
5.既得水利権は公平かつ公正に見直されなければならない。
6.良好な水環境の享受は、憲法で保障される個人の尊厳、幸福追求、健康で文化的な生活の不可欠の要素であって、万民に帰属する。
 
第3(国および地方公共団体の責務)
 国および地方公共団体は、前条の基本理念にのっとり、水政策に関し総合的に策定し、およびこれを実施する責務を有する。
二.国および地方公共団体は、水についての基本的理念に関する国民の理解を深めるよう適切な措置を講じなければならない。
 
第4(事業者の責務)
 事業者は、水の利用および管理にあたっては、水についての基本理念にのっとり事業を行わなければならない。
 
第5(国民の責務)
 何人も、水の利用および管理にあたっては、水についての基本理念を尊守しなければならない。
 
第6(国民の権利としての水環境権)
 何人も、良好な水環境を享有する権利を有する。
二.何人も、水循環の健全化のために、水量、水質および自然生態系など水環境の保全を求める権利、および健全な水環境を求める権利を有する。
 
第7(用語の定義)
 この法律において、次の各号にあげる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一.「水循環」とは、降水が土壌等に保持されつつ地表水・地下水となり流下して海域に流入する一連の過程で蒸発し、再び降水になるという、連続した自然界の水の流れをいう。
二.「水環境」とは、水、土壌、森林、生態系に加え、景観、文化の要素を包含する陸上における水循環の過程である。
三.「流域」とは、分水嶺を境界とする川の自然集水域をいう。
四.「水利権」とは、地表水と地下水を占用する権利をいう。
 
第8(法制上の措置)
 国は、水政策を総合的に推進するため必要な法制上、財政上の措置を講じなければならない。
 
第9(基本的事項の策定)
 国は、基本理念に基づき地方公共団体、事業者が水および水環境を利用しまたは管理するにあたっての基本事項を策定し、流域を基本とした広域的な施策や事業が地方公共団体、事業者に円滑に実施されるよう支援・調整する。


第2章 水政策審議会および広域水協議会
 
◆ 1節 組織
 
第10(水政策審議会)
 ○○省に水政策審議会(以下審議会)を設置する。
二 審議会は、次の各号に掲げる事務をつかさどる。
(1)内閣総理大臣または国務大臣の諮問に応じ、総合的な水政策に関する基本事項または重要事項を審議する。
(2)前号に掲げるもののほか、法令の規程によりその権限に属する事務
三 審議会は、前項の規程に基づく事項に関し、内閣総理大臣または国務大臣に意見をのべることができる。
四 審議会委員は、水政策、環境の保全に関し学識経験のある者並びにNGO(民間公益団体)から内総理大臣がこれを任命する。
五 前号に定める他、審議会の組織および運営に関し必要な事項は、政令で定める。
 
第11(広域水協議会)
 市町村と都道府県は、基本理念に基づき総合的な水政策を推進するために、流域を基本として当該地域に広域水協議会を設置しなければならない。
二 広域水協議会は、流域を基本とし当該地域における水系、地形、水収支、その他の自然的条件及び人口、土地利用、水道および下水道の整備状況を勘案し設置される。
三 広域水協議会の組織および運営関し必要な事項は別に定める。
 
第12(広域水審議会)
 広域水協議会の各地方公共団体が水政策を推進するにあたって基本方針の審議等を行う広域水審議会を設置する。
二 広域水審議会の組織及び運営に関し必要な事項は別に定める。
 
 
◆ 2節 水環境総合計画
 
第13(水憲章の制定)
 広域水協議会は当該地域の水環境の保全と回復に関する基本理念(これを以下「水憲章」とする)をさだめる。
二.水憲章を具体化するため広域水協議会の各地方公共団体は水環境基本方針をさだめなければならない。
三.水憲章の制定は住民の発議より行うことができる。
 
第14(水環境総合計画)
 広域水協議会の各地方公共団体は、水憲章を具体化する水環境総合計画を定めるにあたっては、森林、河川、水辺、地下水、土壌 さらにそれら生態系の保全と回復などの事項が含まれていなければならない。
二 広域水協議会の各地方公共団体は、水環境基本方針を定めるにあたっては、当該流域を基本とした広域圏における水収支の変化を可能な限り定量的な把握に努める。
三 第1項の総合計画には、当該地域における水道事業および下水道事業の水環境の保全と回復にはたす役割についての事項が含まれていなければならない。
四 広域水協議会の各地方公共団体が、水環境総合計画を定める場合は、あらかじめ広域水審議会の意見をきかなければならない。
五 広域水協議会の各地方公共団体が、水環境総合計画を定める場合は、あらかじめ関係住民の意見をきかなければならない。
六 水環境総合計画の制定は住民の発議より行うことができる。
 
第00(水環境条例)
 広域水協議会の各地方公共団体は、水環境全体の保全と回復をはかるため水環境条例を制定しなければならない。
二 水環境条例の制定にあたっては広域審議会の意見をきかなければならない。