2005年9月10日(土曜日) 895号
 う〜ん、そう言われてみれば確かに似ている、双子のようだ。思考方法も人間的な薄っぺらさや、権力志向、そして意外にも高い人気。2人の共通点はかなり多い。この2人とは誰あろう、わが小泉純一郎首相と米ブッシュ大統領である。▼選挙を前にあるテレビ番組で、各地の街頭インタビューを行っていたが、老若男女を問わず小泉評価が高いのに驚いた。曰く「分かりやすい」「はっきりしている」「改革を思い切って実行できるのは小泉さんだ」などなど…。ここで決定的に欠落しているのは政策の中身であり、それによって暮らし(経済)、社会、平和がどうなっているかだ。他人事のように世の中を見ている有権者には、小泉首相のパフォーマンス政治が素晴らしいものに見えるのだろうか。もう首まで泥沼にどっぷり浸かっているのに▼「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが執筆した扶桑社版歴史教科書の採択率が0・4%を下回るという。「つくる会」は全国で10%の採択率を目標としてきたので、この目標を大幅に下回る結果となった。「つくる会」は採択に向けて国会議員、地方議員を通じて教育委員会に圧力をかけ、自民党はこの教科書を採択させるための活動を行うよう通達を出した、ことも指摘されている。第2次大戦はアジア解放のためで、「東京裁判」は怪しからん、という主張も強まっている。小泉の危険な体質はこの先導役に最適ではないか。

(風)
2005年9月25日(日曜日) 896号

 内閣府世論調査によれば、「政府に力を入れてほしい政策」のトップは「医療年金等の社会保障」。「小さな政府」で個人が「自己責任」で負わされる生活リスクの回避こそ求められている▼小泉首相の所信表明演説は、「簡素で効率的な政府」の総仕上げを目指すという。だが「警察官25万人、自衛隊24万人」の「大きな国家」だけが「国民の安全と安心をつかさどる」はずもない。小選挙区の得票率も自公連立が50%を切り、その意味で郵政民営化の「暴論」を、「国民は『正論』と審判を下した」わけでもない▼とはいえ首相の支持率も選挙前に比べ増加。なぜ支持が集まるのか。首相の言論が浅薄だとしても「生活実感にあった言葉を用い、変革を指向している」からで「生活者の間でいかに閉塞感が強いか物語る」(新川敏光・京都大学教授)という見解もある。例えば賃金構造基本調査にみればこの10年で高卒40〜44歳の賃金水準は第1十分位数で実質△8・4%、低所得層ほど落ち込んだ。労基法、最賃法を無視したサービス残業や低賃金の実態があり、企業に雇用契約のフリーハンドを許す法案も浮上している▼拠って立つところから「当たり前」を闘う姿勢が改めて求められているのだろうか。先の政治学者はいう。「よりよき未来のビジョン」は「保守的言説の中に自らを紛れこませようという姑息な態度からは生まれるべくもない」。

(岳)

2005年10月10日(月曜日) 897号

 選び選ばれし者の責任
アメリカでは、ハリケーン・カトリーナによる過去最大級の被害に対する初動対応やその後の対処の不足により、ブッシュ大統領は支持率を大幅に減らし批判の嵐に見舞われている。そもそも国家予算の災害対策費用は軽視され削減され、一方にイラク派兵による戦費増大があった。また、州兵のイラク派兵による人員不足のため被害が拡大、人災ではないかと批判されている。●その批判は的を射ているとは思う。しかし、ブッシュを支持しイラク派兵を可能にしたのはアメリカ国民である。今現在においてはアメリカにおける反イラク戦争の昂揚など内外を問わずブッシュの政策は批判に曝されている。しかし、政権選択時において対立する意見もあったが、ブッシュを支持したのはアメリカ国民である。●問題の状況が変わった場合、批判し反対するのは国民の権利であり、当然のことである。あえて言おう。イラクへの派兵そして防波堤の問題を先送りにしてきたのはアメリカ国民が、結局のところ可としてきたからである。その責任は誰が負うべきなのだろうか。●あらゆる事にとりわけ政府の政策に対し座視していては国民の生活と権利は守られない。結局のところ黙認するところとなるからである。日本では小泉政権の圧倒的な人気?により先の総選挙では自民党が大勝した。既に「憲法論議」が喧しい。我々の責任が問われている。

(佐)

2005年10月25日(火曜日) 898号

 労働契約法制をめぐる審議が本格化しようとしている。契約法は最低基準を定め、罰則のともなう強制法規である労基法とともに、雇用・就労形態の多様化、企業再編、個別労働紛争の増加などの環境変化に対応し、労働生活全般の保護を目的に本来構想されたものである。▲しかし厚生労働省の研究会報告は、「労働条件切り下げか解雇か」を選択させる雇用継続型契約変更制度、一定のお金を払えば労働者を解雇できる金銭解決制度、ホワイトカラー労働者を労基法・労働時間規制から外す事等の制度導入が主眼であり、規制緩和の流れに迎合するもの。▲加えて所得格差は拡大の一途である。上位2割の最高所得者層と下位2割の最低所得層の開きは、80年代前半は10倍以内だったが02年には16・8倍となったとの指摘もある。生活保護世帯も急増、制度の発足以来はじめて100万世帯を越え、保護費の総額はこの10年間で1兆円、8割上昇するにいたった。教育現場では臨時教員が耐えかねて生活保護を受給するという事態も生まれている。日本社会と国民生活はかつてない崩壊の危機にさらされている。▲しかし、この事態に政府は、市場主義者が占拠する経済財政諮問会議が言う「成長が実現すれば全てうまくいく」、との旧来の観念に依然拝跪するだけのようだ。資本の都合や経済合理性に群がる社会ではなく、労働の尊厳に基づく福祉型社会こそ求められている。

(六)

2005年11月10日(木曜日) 899号

 総選挙で自民党が大勝して以来、状況は確実に右傾化の歩みを強め、これまで以上にアメリカとの一体化路線が鮮明となっている●10月17日、小泉首相は就任以来5度目の靖国神社参拝を強行。9月の大阪高裁違憲判決や国際世論を考慮してか、平服で一般参拝者と同じように賽銭を投げ入れて黙祷した。「戦死者を弔い、二度と戦争をしないことを誓っての参拝」を繰り返すが、アジア諸国は反発を強めている。悪化する日中関係には一顧だに加えず、ひたすら自らの「信念」に従うという一国の宰相を持つ国民の不幸や如何に●その後、矢継ぎ早に重大ニュースが報じられた。10月26日、沖縄の米海兵隊普天間基地移設で「シュワブ沿岸案」が日米両政府により「基本合意」という暴挙。アメリカのローレン国防副長官と交渉に当たった大野防衛庁長官は会談後、出身が香川県であることから、「讃岐うどんの粘り腰でがんばった」などと合意内容を自画自賛する有様。われわれの願いを裏切りながらの厚顔無恥な態度には、心底怒りを感じる。さらに、27日、神奈川の横須賀基地に米原子力空母配備計画。28日、自民党が「新憲法草案」を決定。第9条2項に「自衛軍・海外活動」を明記して集団的自衛権=海外侵略へ踏み出そうとしている。31日、食品安全委員会が米国産牛肉を12月から輸入再開の答申。しかし小泉内閣支持率は新内閣組閣後の調査で60%を超えている。

(風)

2005年11月25日(金曜日) 900号

 人間誰しも泥沼状態に陥るときがある。そんな時「結局、救ってくれたのは飲み友達だった。今までと変わりなくきちんと扱ってくれる友人がいた。悲しいことがあって訪ねると、黙って仏像の写真を見せてくれる先輩がいた」と、或るシェークスピア研究者は11月21日の日経新聞に寄せている。平凡な話であるが今日この頃は妙なる関係模様である。「自惚れ」から「自己卑下」への逆境から、努力して「謙虚さ備えた生きる自信」を学んだという。●さて、レーニンは「謙虚さ備えた自信」確信と世界の知性としての人であったという。1980年代の初頭までレーニン主義者の全盛であったが、今や、冷笑の対象である。世界資本主義の心臓部ウオール街の中にはマルクスの資本の論理を評価することがあっても、世の巷でさえロシア革命の成功者レーニンを共産主義を掲げた世紀の大実験・ソ連邦の見るも無惨な失敗者として顧みることはない。●しかし、ソ連邦崩壊10余年、うれしいことにレーニン論がチラチラと出始めている。実にレーニンには尽きせぬ魅力があるが、ドイツ革命の失敗者ローザはレーニン組織論に一党独裁一人独裁とスターリン独裁を見透すかのように仮借のない批判を浴びせていた。然りであろう。平凡な一兵卒としては、物事はもう何も変えられないと、多くの人々が口にする今の時代こそ、人間らしい生き方を求めて、理想を大切に生きていきたいものである。

(黒)

2005年12月10・25日(日曜日) 901号

 06春闘の連合方針は「1%以上の成果配分」。を求め、金属労協もベアゼロ方針を転換、賃金改善要求は5年ぶりのことだ。「連合白書」は不労所得の増加、労働分配率の低下、企業の役員報酬上昇をあらためて報告。現状はとうに「貧富の差の大きな社会」だ▼みずほ証券の誤発注は400億円を損失、そのおかげをもって人材派遣会社の株取得で24歳会社役員が5億6千万円儲けた。ほんの数分の間のことだ。損失の一方で400億円の「利益」があり稼ぎ頭は外資系証券会社。一瞬の油断もならない弱肉強食に「市場主義の神髄」を見た▼バブル期、土地資産や株式資産の増加分がGNPを上回る「勤労所得は矮小化され、キャピタル・ゲインがグロテスクに肥大化」この事態は、「個々人の勤勉を最大限に尊重する労働の世界への侮辱である」(89年「国民の経済白書」・平和経済計画会議)と指摘された。「労働の世界の風化現象」に「個々の労働者」は「深い諦観に追いやられていく」からだ▼「金融機関の業務はリスクをとること」といっていたはずの与謝野金融担当大臣。誤発注で大儲けの証券各社には、なぜか「美しい話ではない」と批判。で、“自主的な利益返上”を要請(日経12月16日付)。いまや、株式配当はバブル経済ピーク時の5倍以上という。06春闘に「『不条理への怒り』」に敏感な労働運動を」と「連合白書」。然り。「美しい話」を聞きたいわけじゃない。

(岳)

2006年1月25日(水曜日) 903号

 06年は例年にない大雪と、そしてライブドアショックで始まった。市場はまた犠牲者を作り出した。新年に相応しい事ではないが、「官から民へ」と市場化を強要してきたこの5年間を総括する出来事である。この日,株式市場は買い注文の650倍の売り注文が殺到、東証一部の全銘柄時価総額は30兆円減少した。市場の暴力性は、消費を下支えてきた個人株主を直撃する。▲そのリスクマネー化を奨励したのは時の金融担当大臣であり、経済財政諮問会議の面々である。しかし、当の本人達は「残念」と言い、政治は空虚な「精神の自由論」と同様、“倫理”を説くだけである。市場と倫理は抱き合って永劫回帰し、政治は自らを語れない。▲かつて英国のマーガレット・サッチャーは、「社会などと言うものは実在しない。あるのはただ個人と市場だけである」と豪語した。社会が空ならば政治は本来的に無用な事である。▲先日、連合主催の「税制改革シンポ」で東大・神野教授は、【他人を信頼している】〈フインランド80%、日本30%〉、【他人に利用されることを危惧する】はこの数値が逆転するとの調査結果を紹介していた。日本社会はかつてなく病んでいる。▲市場化テストなどという公共の功利主義的な再編を受け入れることはできない。理性的で持続的な公共の再確立をめざし、自由の名の下に簒奪されようとしている政治を取り戻す時である。

(六)

2006年2月10日(金曜日) 904号

 小泉首相は国会答弁で、「現在言われているほど日本社会に格差はない。将来は格差が広がるという懸念はある」とのべた。しかし企業規模や地域間による格差は確実に拡大している。法人企業統計をもとにした従業員一人あたりの年間給与は、04年までの10年間で中小企業が9・8%減の284万円、大企業が9%増の582万円で両者の差は256万円から298万円に拡大した。有効求人倍率でみる地域間格差は自動車が好調な愛知は1・6倍なのに対し、沖縄、青森、高知は0・5倍にも届かない。これは国民に痛みを強要する小泉構造改革の結果であるといっても異論はあるまい。書店には「下流社会」を表題にした本が並ぶ。かつての「総中流社会」は今や旧き良き時代の感がある▲麻生外相は1月28日、小泉首相の靖国神社参拝に関連して「天皇陛下の参拝が一番だ」とのべた。靖国神社を巡っては、このところ様々な動きがある。中で最も注目を集めているのは、読売新聞・渡辺恒雄主筆の発言であろう。仇敵?朝日新聞社の発行する月刊誌『論座』で若宮啓文論説主幹との対談を行い、靖国神社への首相参拝をばっさり切り捨てた。憲法改悪をリードしてきた読売新聞渡辺主筆と朝日新聞の「共闘」は興味のあるところだが、ここで革新政党、労働運動の姿が見えないのはさみしい。戦後60年を機に反撃の萌芽を06春闘の中から育てていこう。

(風)

2006年2月25日(土曜日) 905号

 小泉首相は国会答弁で、「現在言われているほど日本社会に格差はない。将来は格差が広がるという懸念はある」とのべた。しかし企業規模や地域間による格差は確実に拡大している。法人企業統計をもとにした従業員一人あたりの年間給与は、04年までの10年間で中小企業が9・8%減の284万円、大企業が9%増の582万円で両者の差は256万円から298万円に拡大した。有効求人倍率でみる地域間格差は自動車が好調な愛知は1・6倍なのに対し、沖縄、青森、高知は0・5倍にも届かない。これは国民に痛みを強要する小泉構造改革の結果であるといっても異論はあるまい。書店には「下流社会」を表題にした本が並ぶ。かつての「総中流社会」は今や旧き良き時代の感がある▲麻生外相は1月28日、小泉首相の靖国神社参拝に関連して「天皇陛下の参拝が一番だ」とのべた。靖国神社を巡っては、このところ様々な動きがある。中で最も注目を集めているのは、読売新聞・渡辺恒雄主筆の発言であろう。仇敵?朝日新聞社の発行する月刊誌『論座』で若宮啓文論説主幹との対談を行い、靖国神社への首相参拝をばっさり切り捨てた。憲法改悪をリードしてきた読売新聞渡辺主筆と朝日新聞の「共闘」は興味のあるところだが、ここで革新政党、労働運動の姿が見えないのはさみしい。戦後60年を機に反撃の萌芽を06春闘の中から育てていこう。

(風)

2006年3月10日(金曜日) 906号

 メール問題に揺れた国会はどうやら落着先を見い出したようである。事案は常日頃、さぞ風説が飛び交うのであろう永田町政治の現実を垣間見せている。自民党「新主流派」は、これが政治、教育とばかり民主党・前原執行部への親心も覗かせながら、戒めを施している。▼しかし政治と金、政・官・財のトライアングルに本当にメスは入ったのだろうか。ライブドア事件が示した物は新たな三者の共犯関係ではないのか。政治が主導した規制緩和、構造改革は、市場神話を政治に取り込んだ。株式分割による時価評価額の増大など、「禁断の果実」も生み出され、一方で耐震偽装やBSE問題などの陰影も深まった。▼市場へ参加しリスクをとることが強要され、勝者が称揚される政治の下で、いつのまにか広範囲に共時・共犯関係が成立、市場化や民営化の分だけ政治や政策の持つ影響は大きくなっている。その政治の表舞台は論語やら格言が流布され、第三者や中立性を装いながら清貧に在る。「君子危うきに近寄らず」、9月を前に日本の政治は「聖人君子」の様相すら見せ始めている。▼熱狂と神話、冷静と情熱、光と影の下で、「格差問題」は風説の類とされ、平等や連帯などの社会的価値規範は二次的なものとされた。北欧諸国はこれと対極にある。日本と異なり、等しく市場に向き合うにしても、そこでめざされているものは福祉国家、政策の強化であり市民的民主主義、市民的公共の発展である。その点では保守層も含めて共通していると言う。労働と福祉・経済、三位一体で新たな社会づくりに向いたいものだ。

(六)

2006年3月25日(土曜日) 907号

 3月12日に山口県岩国市において、「米軍岩国基地への空母艦載機部隊の移転を問う岩国市の住民投票」がおこなわれ、投票率58・68%で成立し、およそ9割にあたる4万3433人(有資格者の51・30%)の反対多数で決着した。移転による騒音被害を懸念し、隣接する広島県西部の自治体や住民からは、「今回の結果を心強く思う」、「日・米政府は結果を真摯に受けとめ、地元の意志をくむべきだ」との声があがっている。▼
しかし政府は、「防衛は国の専権事項であり、市の権限に属さない事項であるので意味がない」とし、基地移転を変更する意志はないと発言。しめされた民意には、条例の観点からも法的な拘束力はなく、考慮するいわれはないとし、岩国市からの撤回要求に歩み寄る気はないとしている。さらに「安保や防衛など国が責任を持つことを、住民投票にかけることは適当でない。一種の地域エゴイズムだ」「合併をする近隣の市等には基地移転に賛成の方もいるのになぜ今するのか」「市長の新市長選挙への政治パフォーマンスにすぎない」などの声をあげ、しめされた民意に対処せず、論点をすり替え顧みようともしない。▼選挙では、公約にもしていない、格差社会を民意は得たと押しつけ、その一方で都合の悪い民意は、明確にしめされても無視をする。このような政府をいったいいつまで支持しつづけるのだろうか、なぜこのような政府を選んだのか国民はもっと政治に対して責任をもち、考えるべきではないのか。

(森)

2006年4月10日(月曜日) 908号

 東京では桜の季節が峠を越えた。その名残で本部近くを流れる神田川の川面には、上流で散った桜の花びらがピンクの帯を作って下流に流れていく。4月6日、小泉首相の在位日数が戦後歴代首相で第3位の長期政権となった。1807日の在位数は、佐藤栄作、吉田茂に次ぐもので、約5年にわたって日本の政治を牛耳ってきたことになる▼時の権力者は桜が好きだ。豊臣秀吉の京都・醍醐寺の花見の宴はあまりにも有名であるが、小泉首相がこよなく慕う織田信長はどうであったか。桜よりも比叡山の焼き討ち等にみられる破壊者の姿がまず浮び小泉純一郎にダブって見える。社民党の福島党首が小泉首相を指し「自民党をぶっ壊すと言って登場したが、実際にぶっ壊したのは日本社会だ」とのべたがけだし名言である▼小泉構造改革のもとで、痛みつけられ続けてきた日本国民の反応とは違い、フランスでは機会均等法の中の若者雇用策「初期雇用契約(CPE)」の撤廃を求め、労働者、学生が一体となって激しい闘いが続けられた。3月28日に続き4月4日にも第2波のストを実施。国鉄などの公共交通機関、郵便、電話、銀行、メディアなどの労働者がストを決行、高校生を含む学生のデモには310万人が参加した。ドビルパン首相の支持率は1月の48%から28%に急落。10日に至って、仏政府はついに「CPE」撤回を決めた。日本の現状との対比で何ともやりきれなさを感じる。

(風)

2006年4月25日(火曜日) 909号

 4月も中旬を越え06春闘の賃上げ回答がまとまりつつある。連合集計(13日)で平均1・88%、5594円と昨年から0・15%、481円増。中小労組で0・14%、385円増は、「賃金カーブ確保相当分目安4500円以上を確保、賃金水準の回復、二極化の流れに歯止めをかける闘いが確実に進んでいる」(連合)。ただし経団連集計は、鵜呑みにできないとしても、中小はわずかに0・04%、147円増にとどまり、未組織を含めた賃上げに厳しさが続いている▼先日の新聞各紙は、ある大手民間組合の「35歳・500円」の妥結は、実は「35歳だけピンポイントの配分」と報道。ギリギリの労使交渉の結果だとしても「異例」ではあろう。民間単産による「定昇相当分」の開示資料からみても、昇給昇格の個別化など様々な要素による賃金上昇がある中で、ベアと定昇分の区分が明確であるとは言い難い▼思えば、連合は結成時より「社会的標準賃金の確立」を掲げてきたのだ。公務員賃金は勧告の平均ベアと同時に俸給表の各号級が〈率・額〉で明示される。賃金要求の年齢ポイントは、「配分要求の必要から行われてきた」としても、「相互の水準比較」も明らになる。その意味で随分とわかりやすく長きにわたり“指標”とされてきた所以でもある。いま我々が求める“社会的合意の再構築”を開くために、例えば、春闘において公務員賃金を〈社会化〉する闘いとは、どんなものだろうか。

(岳)

2006年6月10日(土曜日) 911号

 通常国会も後半にきて小泉内閣は、教育基本法改悪案、「共謀罪」設置法案、そして5月26日には与党、民主党の改憲手続きを盛り込んだ「国民投票法案」が提出された。国会は小泉首相の「退陣」を前に、でたらめ国会の様相すら呈している。同時に法案の内容もさることながら、数を力に、「恫喝と詭弁」でもって民主主義のルールすら踏みにじる新自由主義者の政治の本質も明らかにしているようだ。▼彼らは「個人の自由」を最大価値に、勝ち組・少数者による政治を「民主主義」と読みかえようとしているにすぎない。そして「愛国心」や「宗教心」、道徳律をことさら政治に塗り込もうとするこの間の動きは、それをも越え、自ら作り出した「不安」社会に、彼らなりの「安全」「安心」社会の構想を与えようとするものだ。そこにあるものは、「犯罪行為、準備行為」を犯さなくても話あっただけで懲役4年以上の619件におよぶ罪を問える共謀罪が示すように、「市民社会」への憎悪とも思われる感覚が見え隠れする。彼らには「民主主義の力」に対する嫌悪や恐れはあっても、信頼感は欠如しているようだ。▼国民投票法にしても欧州・スペインでは、「上・下院の3分の2の賛成が必要で、かつ両院を解散してなお3分の2の多数を得た場合のみ憲法改正を国民投票にかけることができる」という慎重な手続きを必要とするという。「平和憲法」を持つ日本で問われているのは、「愛国心」などではなく、「民主主義」の成熟度そのものである。

(睦)

2006年6月25日(日曜日) 912号

 中国で旧満州引き揚げ60周年を記念する式典が25日遼寧省葫蘆島で行われ、日本からは村山富市元首相、引き揚げ者等約200人が出席した▼中国は、日中友好改善を図る為に歴史問題においても、日中間で共通に正しく歴史認識を共有できることをアピールしたと思う。中国は、まず行動に出て態度を示し、彼らが主張してきたことができると世界に対し示した。が、わが国の対応はどうか。歩み寄るために何をするべきなのか、何ができるのか、日本の主張に沿う形は何なのかを政府はいまだに示さず、相手の出方が悪いと待ちの一手である気がしてならない。▼小泉は、自身がこじれさせた責任を否定・拒否し相手が悪いと開き直り、安易に国内外のナショナリズムをあおり問題を悪化させ、責任をポスト小泉へと丸投げしている。国内からの批判に関しても中韓両国の同調者であるとして批判をし聞く耳を持たない。あたかも自分の行動のみが太平洋戦争による犠牲者への正しい姿勢であるかのような傲慢な言動、態度は一国の首相としていかがなものか。▼この国はいつこの問題に決着をつけるのか、いつまで結論を先延ばしにするのか、また国民はこのような首相を選んだ責任をどう取るのか、面倒な事は先送りにし後の人間に責任を擦り付ける政府をいつまで許すのか。今こそ国民が政治に対し責任を持ち、行動できるように、我々が確固たる信念で運動を進めるときではないだろうか

(森)

2006年7月10日(月曜日) 913号

 「愛国心は、悪党どもが最後に逃げ込む場所だ」イギリスの詩人・サミュエル・ジョンソンは200年も前に「愛国心」についてこう述べた。しかし、為政者が「愛国心」を使って国民を翻弄する手口は続いている。3年前の9・11事件でアメリカ政府は「愛国心」を演出して煽りたてた。国旗・ユニオンジャックを国民の脳裏に焼きつけ、イラク侵略戦争に国民を駆り立てた。しかしその結果は明らかであろう。今やイラク戦争は誤っていた、とする世論が多数を占めるに至った。日本でも「国旗及び国歌に関する法律」(略称・国旗国歌法)が1999年の国会で強行採決されて以来、「愛国心」は急速に様々な形でわれわれの日常に浸透してきている▼先の通常国会で「愛国心」の表現の仕方が話題になった「教育基本法」が継続審議になった。平和フォーラム、日教組などを先頭に運動は広がりを見せた結果であろう。しかし、なぜ「教育基本法」を変える必要があるのか、の本質論議はほとんど明らかにされなかった。自公政府は「愛国心」の表現を「伝統と文化を尊重し、それをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに」とし、民主党案では「日本を愛する心を涵養し」とした。これでは主客転倒である。愛することのできる国造りこそが基本であろう。「愛国心」を押しつける「悪党ども」=新自由主義者、新国家主義者にNO!を突きつけよう。

(風)

2006年9月10日(日曜日) 916号

 「巨人の星」。貧しい生活の中で父のスパルタ教育を受けた星が、最大のライバルで自動車メーカー御曹司「花形」との死闘を繰り返しながら某球団エースとなる人気漫画。「立身出世」か「階級闘争」のメタファーかはともかく、アニメの主題歌を諳んじる世代もある▼で、最近それが復活した。ただし主人公はちがう。「今の中高生には、貧しさからはい上がる飛雄馬より、恵まれた環境にある花形のほうがリアリティーがある」(講談社)からだという。思えば、「ハリスの旋風」の「国松」も「あしたのジョー」も下町育ちだったが▼7月公表のOECD報告で、いまや日本は相対的貧困層の割合が先進国2番目、「不平等の度合いが増し」、所得が低い世帯の子どもたちの教育水準低下などを招く恐れがある、と懸念される状態。厚労省の国民生活基礎調査では、「生活が苦しい」世帯は56・2%に達し、過去最悪を更新。労働経済白書は、若年者(15〜34歳)で失業率も増加、20代では著しい非正規雇用の増加と格差拡大が続き、10年間に20代で年収150万円未満の低所得層が15・8%から21・8%に増え、非正規比率は労働人口の約32%を占め約1590万人に上ると報告。たしかに成功者の「リアリティー」は「花形」の方か▼さて、人勧後の賃金闘争では、公務員賃金の社会的合意と社会的標準化をどう確立するかが、中長期的にも大きな課題。格差拡大に対し、労働の世界における平等化戦略としての公務員賃金の役割もあらためて問われるだろうか。そういえば、「飛雄馬」は、「human」から名付けられたらしい。

(岳)

2006年10月10日(火曜日) 918号

 北朝鮮は10月9日、地下核実験を強行した。北朝鮮は安全性が十分確保されたものだった、と強弁し、一方、国際社会は「最後の一線を超えた」と国連での制裁決議を求めている。北朝鮮の核実験は不安定化しつつある国際社会の緊張を高めるもので、けっして容認できるものではない。▼しかし同時に、何がこの国際社会の不安定化を招いたのか、「悪の枢軸」と名指しし、小国にとって核兵器こそが最後の「抑止手段」との認識を強要、国際法遵守の重要性の著しい低下と国際法の「真空状態」ともいえる状態を生み出したもの。国際政治は等しく、そのことを世界の人々から厳しく問われてもいる。▼先の合成洗剤追放集会では国境を越え多発する水紛争の危険と、飲み水を手にいれることのできない18億人の人々。8億人の人々が飢餓状態にある一方、例えば日本は640億トンもの見えざる水の輸入大国であり、アジア、アフリカの人々は財と環境資源、生態系と生存のための条件と能力すら略奪されている実態にあることが告発されていた▼世界の格差はジニ係数で1・0に近く、人類史上最悪の状態にあるとも言われる。「不安定な世界」の背景にはこうした不平等・格差が横たわっている。この現実を前に政治は何を語りはじめようとするのだろうか。我々の取り組みもまた問われることとなる。

(睦)

2006年10月25日(水曜日) 919号

 アメリカは北朝鮮への国連制裁決議が採択されたことを受け、次は、北朝鮮と同じように核ミサイル保持を目指している、とされているイランについて、制裁決議を採択する番だと、国際社会に訴えている。確かに、北朝鮮が核実験を行い、近隣諸国に対し平和を脅かしたことで、国連の制裁決議が採択されたことは当然だが、疑わしいというだけで、イランについて制裁を課すのはいかがなものであろうか。まだイランは、北朝鮮と違い、核兵器製造・保持にむけた、核実験という越えてはならない一線を越えてはいないのである。越えた者と越えようとする者は同罪であろうか。イランにも、国際社会から不信の念を抱かれる状況をつくっており、国際社会に向け、真摯に、なすべきことがあるはずではなかろうか。このことで、日本の果せること求められていることは何であろうか。国際社会に向け、そのようなことにはならないように、唯一の原爆投下された国として犠牲者の無念な思いに対し、平和憲法をかかげる責任ある国として、軍事的核利用に対して強く反対し、何よりも罪のない一般市民に戦争による犠牲がないように、軍事的外交圧力ではなく、対話による地道な、平和的な道を目指すためにリーダーシップをとることが求められているのではないだろうか。そのためにも今、我々が掲げる反戦平和、反核・反原発闘争の意味が問われている。

(森)

2006年11月10日(金曜日) 920号

 先日山口県の山口宇部空港に行ったが土産物売り場には、「祝 安倍晋三総理誕生」のステッカーが所狭しと貼られ、土産物にも「祝 晋ちゃん」の似顔絵入り熨斗紙が貼られていて迷惑この上もない。さらに、空港レストランに入ったら「晋ちゃん弁当」まであって辟易させられた▼タカ派宰相・安倍晋三は、外交については靖国参拝や第2次大戦での侵略、戦犯問題等では本音をひた隠しにしている。が、内政面ではタカ派体質を鮮明にしている。今国会の最重要課題と位置づけている教育基本法改悪問題では、強行採決をしてでも成立を図ろうと狙っている。成立すれば教育現場をはじめあらゆる場で「愛国心」の強制は必至だ▼安倍首相は、官房副長官時代の02年5月13日、早稲田大学の講演で「憲法上は原子爆弾だって問題ないですからね、憲法上は。小型であればですね」とのべた。”合憲”の根拠を「戦術核を使うということは昭和35年の岸総理答弁で、違憲ではない、という答弁がされています」と祖父・岸信介の発言を引用し正当化している。このところ自民党の麻生外相、中川政調会長は繰り返し「核保有の論議を」と言い、安倍首相も「非核三原則は守るが、核保有論議はいい」とのべた。北朝鮮問題で国民の危機感をあおり、核保持の世論形成作りを始めた安部内閣のもとで非核三原則も正念場を迎える。安倍総理の誕生を祝うどころではない。

(風)

2006年11月25日(土曜日) 921号

 雇用不安定化、低賃金・長時間化という労働の「質」の劣化が深刻な「貧困化」を伴う「格差」として立ち現れている。いま「仕事や能力開発の保障は人間としての存在を大きく左右する基本的人権」としてILOフィラデルフィア宣言「『労働は商品ではない』という原則は重要性を帯びる」(「労働ダンピング」中野麻美・岩波新書)。すでに「連合評価委員会」(03年)は、「労働運動の社会的存在意義はますます希薄化」する危機感に「私たち皆が労働しているという事実から出発し・・労働とは何か、働くということは何を意味しているのかを見直すことからはじめなければならない」と報告した▼労働組合に多くが問われてきた。例えば“地域公共サービスを支える労働組合”とは何か。「良い社会をつくる公共サービス」の実現はいうまでもなく労働者の尊厳、社会的地位・権利と職場の労働条件に貫かれた労働のあり方に関わる。“「水の公共性」を基盤に、地域に自律する安全・安心の水道事業”の確立を求めそれを支える働き方の獲得と団結を目指してきた所以だろうか▼世界的な水不足と水道民営化に対するPSI(国際公務労連)の運動基調は「水は商品ではなく人権」。そういえばフィラデルフィア宣言はこう続く。「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険」「欠乏に対する闘いは・・不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において・・」。

(岳)

2006年12月10・25日(日・月曜日) 922号

 年末の慌ただしさの中、教育基本法改悪案が強行採決された。かつては「福祉の党」「人間の顔をした社会主義」まで掲げ、「政教分離」を原則とする戦後民主主義の中で育った党の変質は看過できない。▼この改悪は公共を「精神の有り様」や道徳に矮小化し、「内心の自由」への国家の介入に正当性を与え、個性や人格の発展・成長の芽を摘み阻害することを可能とする。二重の意味で反社会的、反人間的なものである。▼近代的自我は資本主義が過去の社会の遺制をこわし、自己と社会との分裂、一体感を喪失したところに生まれた。自己同一性、アイデンティテーを求め続け、「宗教と政治」の闘いを経た哲学の時代は、この絶え間ない「不安社会」に投げ込まれた人々の時代でもある。それは、時に偏狭なナショナリズム、ファシズムを醸成もした。しかし、その反省の上にある現代の民主主義は、「個と社会の関係」との苦悩の中から培われてきたものであり、「内心の自由」とはその矛盾・苦悩そのものの事でもある。▼「不安定常型社会」。今日の政治は「不安」に向き合ってきたモデルであった福祉社会を打ち捨て、返す刀でそれ以外に救済の道はないかのように、人々を執拗に再チャレンジに駆り立てる。参加しないものは脱落者、怠け者とされる社会である。年末繁忙の中、とある職場ではアルバイト不足への対応をかつてない超過勤務の発令で乗り切ろうとしているとのこと。「何のために日頃正規職員、高い給与で雇ってきたんだい?」、そんな囁きが聞こえて来る。「差別と排除」が公然と社会性を与えられる社会にもなりつつある。▼新春インタビューで哲学者の内山節さんは、かつての地区労は労働者・市民双方向に開かれ「市民的公共性」を支える場であったと評価した。我々の新自由主義思想との闘いは、そのような場の再形成であり、当面の舞台は「社会と個人、階級」をきり結ぶ07春闘にある。

(六)

2007年1月25日(木曜日) 924号
 

 今の日本は、格差が拡大し、遺体切断殺人など痛ましい事件が続出、ついには某有名菓子メーカーが賞味期限の切れた牛乳を使った商品を販売していた、など混迷の度を極めだした感がある。昨年から発足した安倍内閣も例外ではないらしく、小泉内閣時代からの不祥事である、タウンミーティングやらせ問題、本間政府税制会長の宿舎不正使用問題での辞職から、現閣僚の不祥事発覚が続出し、迷走ぶりをうかがわせている。▼規制緩和路線を推し進めてきた小泉時代からの不祥事が発覚し、結局のところ規制緩和路線は必要な痛みを国民に耐えてもらっていたのではなく、一部の大企業や、株主などの特権階級が得をするため、しなくてもいい部分まで背負わされてきたということではなかろうか。安倍はいまだに小泉劇場の美酒に酔った愚か者がごとく規制緩和だと、国を支える国民を疲弊させてまで、いつまで夢を見たまま国政を行うのだろうか。国政を預かるものとして国民にしわ寄せを押し付ける前に、まずは自らの襟を正すべきではないのだろうか。また国民は、彼らに対し、自分たちの特権階級だけは、いつまで守っていくつもりなのだ、いつ自らの襟を正すのだ、と声を上げるのだろうか。▼公務員バッシングが激しく行われているが、今、本当に必要なのは公務員を叩く事なのだろうか。所得の再分配など国政をきっちりと見直すことではないのだろうか

(森)

2007年2月10日(土曜日) 925号

 いわゆる「団塊の世代」(ベビーブーマー)の大量退職が「2007年問題」として取り上げられているが、1947年から3年間の出生数は合わせて800万人に達する。この世代が退職の時期を迎えるが、(1)企業ではベテラン職員不足となり、技術の継承等で支障をもたらす(2)年金制度に混乱をもたらす(3)10年、20年後に多数の介護が必要となるが対策はどうか、など多くの影響が指摘される▼ある県で「団塊の世代」の退職後の希望について企業アンケート調査をしたところ、フルタイムと短時間勤務を合わせ、就労希望は76%であった。一方、「就労しない」は20%で、このうち退職後の生き方として「趣味、スポーツ」希望が69%、「ボランティア、NPO」26%、「何もせずゆっくりする」23%が上位を占める(複数回答)。退職後の生き方は多様である▼こんな中で「団塊の世代」に属する寺島実郎・日本総研会長は、「定年を前にして、蕎麦打ちや陶芸に打ち込んだり、急に家庭的な生き方に回帰する人間が増えた。悪くはないが、私生活主義から一歩も出ない老成ならば問題である。団塊の世代が、地域社会の文化・教育・福祉から地球環境まで、何らかの形で公共という分野で汗を流す方向に向かえば、高齢化社会は暗くはない」とのべている。「団塊の世代」への厳しい指摘である。

(風)

2007年2月25日(日曜日) 926号

 「ともに生きる社会のための公共サービス憲章」。07春闘で公務労協は制定を求め請願署名運動をに取り組む。この公共サービスキャンぺーンに昨年まとまめられた研究会報告「良い社会の公共サービスを考える」(主査・神野直彦)は、新自由主義による国家の強大化と生活空間の「私化」(個人責任化と私企業の利益・領域の拡大・翼賛化)の二極化を指摘、この危機に「社会運動である労働組合の役割」が期待されている▼「良い社会」とは“市民が「公共」の内容と範囲を決める主体になる新しい公共圏”。ならば「市民社会を強化する公務労働」はどうあるべきか、提言をみよう。(1)民営化・委託拡大など「公務の縮減」に対し、現場から“公共を拡充”し市民視点から必要な公共労働へ自己改革(2)賃金・人員削減など「公務労働の過重化」に対し、権利確立と均等処遇、公務労働を担うことが「労働の尊厳」である状態の実現(3)バッシングなど「公務員の自信と誇りの揺らぎ」に対し、憲法15条「全体の奉仕者」理念の“公共を支える精神”、“専門家として養成された技術”に基づく市民からの信頼。公務労働の安定性、継続性、信頼性の再構築だ▼先ごろこんなニュースが入ってきた。“ネパール水道事業の分割民営化は憲法に保障された健康の権利を侵害。水公社の改革にこそチャンスを、と市民団体が提訴”。全水道政策スローガンのひとつは“「水の公共性」を基盤に地域に自律する安全で安心な水道・下水道”。グローバルな闘いであろう。

(岳)

2007年3月10日(土曜日) 927号

 07春闘も山場を迎えようとしている。状況は、依然一時金偏重の様子だ。公正な配分への意欲は感じられず、この間の企業不祥事は忘れたかのように、「GDP前年比5・5%増」「正規雇用37万人、2期連続増」と、またぞろ成長神話が持ち出されている。▼一方、昨年は随分とりあげられた非正規、パート労働問題等の報道は減少気味。正規労働、公務労働を批判している限りにおいて意味があったということなのだろうか。いずれにしろ自らの足下で、この課題を前に進めることの困難さが想像される。これまでの日本の慣行や世間の常識に抵触するからなのだろうか。公務労働においても非常勤職員の処遇の改善は、「権衡にもとづき」「予算の範囲内で」に止まり、そもそも「給与」は労働賃金としては考えられてこなかったことが問い直される。▼国会はというと、松岡農水大臣の500万円の還元水虚偽記載騒動の中にある。開き直りとはいえ、「国民はもはや水道水を飲んでいない」とは言語道断。水道法50年を迎えた日本の水道行政を否定するものであり、即刻罷免されるべきであるが、任命権者は「法に基づく報告」と擁護。先の柳沢厚生労働大臣同様、「市民社会」の常識と大きく乖離した日本の政治の後進性を見せつけている。憲法を蔑ろにしてきたツケでもある。自らを「雲上人」に「仮想有能観」で満足し律してきた日本の政治を、本当の意味で市民社会の中に位置づけ直さなければならない時だと思う。

(六)

2007年3月25日(日曜日) 928号

 3月9日、野球の西武ライオンズが、アマ選手に対し不正に金銭を渡していたことを発表した。球団社長が明らかにしたものだ。一昨年の問題の時に全部明らかにしたはずなのだが、やっぱり出てくるものである。球団社長は開幕戦で、訪れたファンを出迎え、選手全員が試合前に謝罪をしてファンに詫びていた。製菓会社や証券会社の不祥事が報道されている中で、失った信頼を回復するのは並大抵のことではないだろう。西武だけなのかどうか。不信を抑えることは難しいだろう。信頼回復に向け、選手や球団など野球界全体の取り組みが注目されている。▼政治の舞台はどうなのだろうか。松岡農水相をはじめ、一連の疑惑に対しきっちりとした説明を行なうわけではなく、説明にならない説明で、法的責任は果たした、と本人ばかりか、任命権者の安倍総理まで公然と発言している。証券会社が起こした不正会計問題では、不思議と上場廃止にならず、政治的圧力が介入したと公然と報道されている。安倍総理は、従軍慰安婦問題で韓国、中国からだけにはとどまらず、米国メディアにまでたたかれる始末である。▼この国の政治はどうなっているのか。与党自民党、内閣の政治家たちは国民に対する説明責任をどう捉えているのだろうか。全体に対する不信と責任とは思わずこれも個人責任でと言うことなのか。このまま静まるのを待てば、すんでしまうのだろうか。

(森)

2007年4月10日(火曜日) 929号

 格差問題が政治問題となっている。しかし、日本社会全体がどのような実態となっているかについては以外と知られていない。「あいまいな日本の不平等50」という本を読んだ。この本では、教育、社会保障、医療、経済、労働、社会の項目で具体的数字を示して実態を明らかにしている。特に、世界第2位の経済力を誇る我が国において、「相対的貧困率がOECD加盟国で第2位、生活保護受給世帯が100万世帯突破、餓死者がここ数年で600人強」という指摘には驚かされる。▼「痛みを伴う」という小泉改革が進められ、国民の増税や負担増が求められてきた。働く者には低賃構造が押しつけられる一方、企業や金持ちには法人税の減税、所得税や相続税の最高税率が引き下げられてきた。その結果、「貯蓄を有しない」世帯が23・8%に対し、ごく少数の富裕層が持つ資産は平均で54億円にも上るという。政府の政策による格差の拡大は大変深刻な状況である。▼今日の世界経済ではIT技術や情報通信システム等のハード面でのツールが普及した。このことにより、化石資源や鉱物資源、教育システムが整備され、優秀で安価な労働力を資源として有している否かといったことが経済競争での勝敗を決めるという。国境を越えた企業間競争がさらに激さを増し、大手企業も競争に巻き込まれれざるを得ない今日ほど、正規・非正規を問わず労働者全体の条件低下が危惧される。国際連帯、社会的労働運動としての発展が問われていると思う。

(M)

2007年4月25日(水曜日) 930号

 統一自治体選後半戦の投票と参議院補選の投票が22日に行われた。今日のあらゆる分野で深刻化する諸問題に対し、国民の意識がどう反映されるか注目された選挙であった。来る7月参議院選挙で、政権交代への足がかりを作るには、自公の厚い壁を打ち破る運動づくりが必要だ▼13日、衆議院本会議で「国民投票法案」与党案が自公両党の賛成多数で可決された。マスコミも、憲法改定の手続きを定める「国民投票法案」ですら、与党だけの採決で決められる異常事態、と論評した。自公両党は5月3日の憲法記念日までの成立を目指すとしており、戦後60年守られてきた平和憲法は改悪の危機に立たされている。今回の法案で特に大きな問題点と指摘されるのは、(1)公務員・教育者に対する運動規制が条文とし掲げられている点だ。敢えて、公務員・教育者の「地位を利用」した運動を規制する、と強調しているのは、公務員も権利として持つ政治活動の自由を規制という弾圧体制の具体化である(2)最低投票率にふれていない。少なくても有権者数の3分の2以上とすべきだ、など多い。最近の新聞世論調査でも8割が「最低投票率」が必要としている。また、自民党は「改正」ではなく新憲法制定を狙っており、この点も含め予断を許さない▼小泉政権が、郵政民営化成立を目指して強行した解散総選挙で、3分の2を超える圧倒的多数の議席を占めた自公。この力を背景に、その後もやりたい放題の国会運営である。怒りのノーを突きつけなければならない。

(風)

2007年5月10・25日合併号(木・金曜日) 931号

ご案内の通り「世界の水道民営化の実態」(トランスナショナル研究所他/訳・佐久間智子/作品者)が出版された。詳細な紹介は別の機会として、「新たな公共水道にむけた闘いをまとめた」内容は注目すべきものだ▼法律で国内の水道・下水道を民間事業者が運営することを禁止したオランダだが、水道の国際政策では正反対に民間参入を推進する「腹立たしい現実」がある。昨年3月メキシコで開かれた第4回世界水フォーラムでも、著者のNGOがこの本をベースに討議資料「公共の水−公公連携の役割」を発表・「ヨーロッパの二重基準」を批判する一方で、高い技術力と効率的な水道システムを構築している日本の事業体の国際協力が報告され、横浜市水道局、大阪市水道局による東南アジア諸国の水道整備の支援を評価している▼厚労省もトップランナー≠目指す日本水道事業は、世界的にみて“成功している公営水道”だが、いまやそうも言えない事例も。市内2カ所の浄水場の管理を遠く東京の企業に委託した某市。市水道課は「浄水場管理のノウハウをもっているし、定期的な検査を常時やってくれているから、安心。いままで気づかなかったことも教えてくれる」という「民間委託にメリットを感じている」(「ビジネス・ウォーター」中村靖彦/岩波新書・04年)。ならば、“失敗した公営水道”の責任は誰が負いツケは何処に回されるのか。「世界の〈水道民営化〉の実態」の副題は「新たな公共水道をめざして」。地域に自立する事業の確立が問われている。

(岳)

 
2007年6月10日号(日曜日) 932号

国会は会期末を控え、持ち主不明とされる5000万件におよぶ年金納付記録問題を軸に与野党の対立が激しさを増している。▼政府・自民党はこの1年間で記録照合を行うことを公約する一方、労働組合をやり玉にあげ、公務員制度改革法案や、過労死判断ラインである80時間を越えないと時間外賃金の割増率が50%にならない労基法「改正」案をはじめとした労働3法案の強行を目論んでいる。同時に防衛省と陸上自衛隊が、自衛隊のイラク派兵に反対する集会などの取り組みを秘密裏に調査していた事実も明らかになった。▼国民皆年金を標榜し、日本の社会保障の中心として考えられてきたはずの年金制度の現状は、所得の再配分機能を中心に公正な社会をめざしてきたはずだが、実際はそのようなものとしては据えられてはこなかったことを示してもいる。そのことを糊塗するかのように責任と公約を強弁し、一方で国家意志を政治の最大の価値に「戦後レジームからの脱却」を目論む安倍・自民党政治は、市民的公共性や共同性を自由の名の下に解体し、国家の下に収斂しようとするものでもある。▼先の労研集会で内山教授は、労働運動と市民社会双方にとって公共の再生が課題であり、水と社会の関わりはその中心的なテーマでもあると訴えた。全水道の水政策を訴え、国民生活と平和の破壊、福祉社会と公共の変質を許さない闘いに全力をあげる時である。

(六)

 
2007年7月25日号(水曜日) 935号

 7月29日サッカー・アジアカップの決勝が行われ、イラクが初めての優勝を決めた。日本は準決勝でサウジアラビアに敗れ、3位決定戦でも韓国に後れをとった。イラクは決勝進出自体が初めてらしく、決勝に進出が決まると国内はお祭り騒ぎであった。が、その騒ぎを狙いテロが行われ、まとまりきれない国内事情が現実であることを国民は確認し落胆したことだろう 。だが、一筋の光として、サッカーチームには、スンニ派、シーア派、クルド人が結集し、イラク国民が団結しえる可能性を全世界に示した。▼示したといえば、同じ日の29日に日本では、参議院選挙がおこなわれ、国民の安倍自公政権に対する不満と不信が突きつけられ、与党の歴史的敗北と民主党の大躍進により、参議院での与・野党逆転が起き、政権交代にむけた可能性が現実味を帯びている。▼参議院選挙で、宇野政権以来の歴史的敗北を喫した自民党では、安倍首相が続投を表明、中川幹事長、青木参議院会長等の党執行部も容認したが、自らはともに辞意を表明し敗北の責任を取った。党首であり、総理である安倍は、国民が示した民意に対し「私には果たすべき約束があり、辞めるつもりはない」と説明にならない理由をたてに総理の座に固執している。「小沢か私かどちらか選ぶ選挙」と公言してきた筈なのだが。任命してきた閣僚と同じく、国民に示すべき責任をどこに示すのか。

(森)

 
2007年8月10・25日号(金・土曜日) 936号

 今年は「カラ梅雨か」とも思われたが、九州、四国などでは集中豪雨に見舞われた上、この時期としては珍しい大型台風が二つも上陸し、集中豪雨に追い打ちをかける大被害をもたらした。このような気象変動による被害は、日本だけでなく世界を襲っている。大気中のCO2(二酸化炭素)が増大・拡散し、地上や海水の温度上昇が要因とされ、何となく危機意識を感じてはいるものの、直ちに危険な状況に陥るという切迫感はない。▼沖縄近海でサンゴが死滅する異変が生じているという。海洋の専門家に言わせれば、海水の温度上昇によるものだが、もっと問題な海水の酸性化が進んでいるという。地上のCO2を海水が取り込んできたために起きている現象で、それが臨界点に達しつつあることを示したもので深刻であるという。海水の酸性化が進むことは、地上のCO2量を急激に増加させること、気象変動を大きくすることを意味し、かつ、海洋生物の急激な減少〜死滅を意味するものであるからだ。▼唯一の超大国といわれたアメリカが、ポスト冷戦体制の構築と権益の確保を目指し、道義性もなく仕掛けたアフガニスタン、イラク戦争は今や、制御できずに深刻な内戦状態に陥っている。ブッシュ政権の政治的・軍事的信用の失墜により、世界は不安定化し危険な状況である。国内でも、退陣勧告を受けた安倍政権が空気を読めずに居座り、国民生活は危機的状況だ。様々な危機の要因が人によるものだけに、解決に向けた転換はできるはずである。


(M)

 
2007年9月10日号(月曜日) 937号

 臨時国会最大の焦点となる「テロ対策特別措置法」の延長を巡り、与・野党の攻防が行われている。もともとテロ対策特措法は、アメリカで2001年9月11日に発生した同時多発テロで、ブッシュ大統領が「テロとの戦い」を言い出したことで作られた。アメリカのアフガン、イラクと続く侵略戦争を当時の小泉首相が積極的にこれを支持。11月2日、国会で自公によりテロ対策特別措置法が強行成立、自衛隊が憲法を踏みにじって海外派兵されたことは記憶に新しい。現在もインド洋で海上自衛隊がアメリカ軍への給油、イージス艦によるレーダー支援を行い、実質的に集団的自衛権を行使している。11月1日に期限切れとなるテロ特措法を延長させない闘いがの帰趨が今後に与える影響は大きい。アメリカのデタラメな侵略の片棒を担ぐために強行成立させた法律を認めないことは当然である。▼高校生が「核兵器廃絶」の署名を集め、国連に届ける活動を始めて10年になる。今年は特に「微力だけど無力ではない、という思いを胸に世界に届けたい」、という言葉を代表メンバーである「国連平和大使」が語ったことで話題となった。被爆地・長崎で始まった運動は年々広がり、今年は世界から核廃絶に賛同する約8万人分の高校生の署名が国連軍縮会議・コーリー次長に手渡された。原爆投下から62年を経た現在、戦争体験のない若い世代が、核廃絶の運動を力強く進めていることに心から敬意を表したい。


(風)

 
2007年9月25日号(火曜日) 938号

 厚労省「所得再分配調査」はジニ係数の過去最大を報告、この9月の内閣府「国民生活に関する世論調査」も生活に「悩みや不安を感じる」が69・5%と過去最高。貧困者増大と格差拡大は覆い難い▼連合総研「賃金制度と労働組合の取り組みに関する調査研究報告」は、標準化、社会化、透明化を「賃金政策の基本的視点」とした。「戦後初期以来解決を見いだし得ない」課題だが、なおも賃金カーブ維持と“職種や仕事に基づく社会的賃金決定の要求・実践は相互にどう位置付け了解されるのかを問う「立ち返り」を求めた▼公務員賃金の長期的戦略は技能ランクと仕事内容に応じた賃金システム”確立とする意見も多い。とはいえ企業も「熟練形成と賃金支払総額が一致するように賃金をきめている」のでなく「長期雇用や年功賃金は労使の力関係(とりわけ労働側の有効な交渉力)に左右された」(金子勝「市場と制度の経済学」1997年/東大出版会)と断ぜられる事態にもある。「技能は労働者の資産や交渉力の基礎となっていない」のであれば社会的に構成される技能や熟練をどう一人一人の「所有」とするかが、長期戦略に問われるか▼公務員賃金の社会的合意を再構築する取組みは、格差是正と公共部門に働く仕事のやりがいの上に立ち上位水準化をはかる賃金引き上げとされてきた。賃金論に「唯一正しい賃金論」が存在しないとすれば、そこに“納得できる賃金を求める大幅賃上げ”に「立ち返る」戦略はあるか。先の内閣府調査で「収入が安定」「自分にとって楽しい」が例年と同じく多数回答の「理想的な仕事」であった。


(岳)

 
2007年10月10日号(水曜日) 939号

 改革の陰にこそ光を!地方の重視を!安倍首相の辞意を受け発足した福田内閣の下で国会論戦が開始されている。自民党は、総裁選でマスコミを動員し、開かれた国民政党を印象付け、参議院選の贖罪を果たそうとしているようだ。しかし、陰を作り出した当のものは問われてはいない。格差や貧困、不公正な雇用・労働など、構造問題を放置したままの「福田改革」は、国民負担へと道を開くものと思われる。▼「テロ特措法」と自衛隊の給油活動をめぐる議論も、「主権」と自衛の名による力の行使の際限のない拡張と、戦争と国際紛争を解決する手段としての武力行使を放棄した憲法体制との乖離の中で生じた。二度の大戦の経験から、未来は武力による解決を乗り越えたところにしか構想しえないことを確認したはずなのだが…。問われるべきは力の均衡が破綻した後に到来した国際政治の変化であり、強者による弱者、持てるものによる持たざるものの威嚇や支配である。▼12月3,4日、別府市において各国の首脳が参加する「第1回アジア太平洋水サミット」が開催される。水は人権、国際共有財であり、主権・私権による占有や政治的取引、力による問題の解決を禁じ、公共財として供給されるべきこと、水害や渇水への支援など、アジア太平洋地域の「水憲章」、規範を策定、それに依る国連ミレニアム目標の達成に向け一歩を踏み出すものであってほしいと思う。


(睦)

 
2007年11月10日号(土曜日) 941号

 静岡県・御前崎市の中部電力浜岡原発の運転差し止めを求めた市民の訴えを静岡地裁は「具体的な危険が認められない」と退けた。7月の新潟県中越沖地震での被害から市民が原発の耐震性に疑問を持ち行われた裁判。▼地裁は「原子炉施設の安全性とは災害発生の危険性を無視しえる程度に小さくすること。抽象的に想定可能なあらゆる事態に対する安全性を要求するものではない」と断じた。いかなる意味なのだろうか。中越沖地震で問題になった刈羽原発も耐震性には指針上は問題がなかったはずである。また近隣で暮す一般市民が、『抽象的に想定可能なあらゆる事態』に対して安全性を求めて何がいけないのか。日本は地震大国である。活断層の上に原発を置いて、いつ起きるか分からない大地震に対処できるかどうかはその時次第と言うことなのか。▼判決では「原子炉施設の資料は、制約から大部分を電力会社が保有しており、まず設置者である会社側が安全性を主張、立証する必要がある」としている。今までに十分な情報公開、説明責任を果してきたのであろうか。国、電力会社は、『運転差止め』という判決だけを受けとめ、不祥事、問題が浮上したときだけ、言い訳、問題隠しに終始してきたように受けとめられる対応ばかりである。真面目になぜこの国に原発が必要なのか、その最初の問題から議論を始めるべきである。本当に必要があるのならばだが。


(森)

 
2007年11月25日号(日曜日) 942号

 ホリエモン、村上ファンドに代表された経営者の拝金主義がやり玉に挙げられたのは記憶に新しい。今なお発覚する行政・企業不祥事は、日本型政・官・財の癒着構造の上に、単年度ベースでの利益追求を第一義とし、株主利益を優先した企業論理・経営への転換があるからだ。グローバリゼーションという名の金融市場の論理、判断を優先する「カジノ経済・資本主義」のなせる技でもある。▼日本では、サブプライムローン問題はそれほど重要視されていない。投機の世界ではすでに、リスクが比較的少ないと見られている「金融派生商品」についても「劣化必至」と見越し、鉱物、農水産資源等への投機資金の転換が行われている。あらゆる物の値段が上がり始めているのは投機による原料高騰が要因で、景気停滞の兆候も現れ始めているといわれ、不況下の中で物価が上昇する局面にある。▼年収200万円世帯が急増、ネットカフェ難民の増加等、深刻な格差問題を抱え、資源を他国に頼らざるを得ない我が国が受けるダメージは計り知れない。不況局面への移行による賃下げ圧力が強まる中、食料やエネルギー等の生活必需品の高騰が起き、国民生活を直撃することになる。生活破綻を強制される国民が急増することが必至な状況にあるだけに、本格的な生活防衛と格差解消に向けた力強い政治・労働運動が期待される。来春闘では、労働運動の真価が問われていると思う。


(M)

 
2007年12月10・25日号(月・火曜日) 943号

 親族の1人にC型肝炎罹患が判明、インターフェロン投与を続けている。C型肝炎は肝硬変から肝ガンに移行しやすい恐ろしい病気で、薬害肝炎訴訟弁護団の調査では、患者数は200〜240万人といわる。このうちインターフェロン治療必要患者は60万人と推計されている。C型肝炎の原因となったウイルス混入の止血剤・フィブリノゲン製剤は、アメリカでは危険性が指摘され77年に使用禁止となったが、日本では94年まで使用していた。罹患者は1969年〜1994年までに集中している。現在、年間3万5千人の患者が肝ガンで死亡し、この8割がC型肝炎患者といわれる▼現在171人の患者が国と製薬会社の責任を追及し、裁判闘争を行っている。13日に出された大阪高裁の和解骨子案は補償範囲を線引きする案で、国の主張に沿ったものであった。これまで地裁判決は大阪、福岡、東京、名古屋、仙台で出ているが、患者側の勝訴となった4地裁の全てが国、製薬会社の責任を一定の期間とする限定的なもの。患者側の被害者全員の一律救済にはほど遠い内容だ。当時の厚生省が認可した薬剤により罹患した人たちに対する国の対応は余りにも無責任だ。大阪高裁和解案提示前に、患者側は福田総理に「政治決着」を要求し面会を求めたが、福田総理は面会を拒否した。国民の命を守ろうとしない政府には退いてもらうしかない。現在、不祥事が次々と発覚しているが、その根っこは想像するよりも遙かに広く深いのであろう。


(風)

 
2008年2月10日号(日曜日) 946号

 アメリカ大統領予備選挙のスーパーチューズデーは民主党候補の歴史的な大接戦で盛り上がり、多くの若い人が“Change,we can,belive in”とプラカードに掲げた。民主主義に輝くならばアメリカはやはり眩しい▼全水道春闘討論集会に井手英策准教授は、いまや日本は先進国で政治への不信が最も深く社会の公正さも実感できない、と指摘。職場の連帯や共同性の紐帯であるべき労働組合の組織率は2割を切り、社会的波及力の低下が覆いがたい。例えば「自由・平等・友愛」の共和制の国フランスでは労組組織率が1割に満たないが、その労働協約は労働法と同等に全労働者に適用されるという。いわば組織労働者の労働条件が社会的に標準化される▼内閣府が行った「社会意識に関する世論調査」で“どのような人が高い地位と多くの報酬を得ることが望ましいか”の回答に「実績をあげた人が得る」27・9%に対し「誰でも同じくらい」4・4%だが「努力をした人が得る」60・2%と最多。評価の公正性への不信が背景にあるのか、あるいは「自由」な「実績」よりお互いに認め合う「友愛」を求めているのか▼民主党が優勢という大統領選。生活に疲弊した国民はブッシュの戦争や小さな政府継続を選ばない。しかし、例えばそのアメリカより低い日本の時間外割増率。幕末、薩摩の尚五郎はジョン万次郎の語る民主主義に驚き宮崎あおいの篤姫に伝えたのだった。


(岳)

 
2008年2月25日号(月曜日) 947号

 イージス艦「あたご」の民間船舶との衝突事故、沖縄での米兵による暴行事件と国民の安全・安心を脅かす事態、取り返しのつかないような事柄が頻発している。「緊張感や使命感が足りない」という向きもあるが、傍若無人を事とする組織では、そもそも有事と平時の区別は困難なのか…。いずれにしろ9・11以降、世界に向かって「非常事態」が宣言され、常在化し内部化している中では、このような事例は必然的に増加せざるを得ない。▲政府にとっては二重に「不本意」な事だろうが、犠牲になっているのは普通の国民、人々である。「明日は我が身」ということも誇張ではない。社会の崩壊感覚も強まっているのではとすら危惧される。平和、憲法をないがしろにし、「日本型システムの否定とアメリカ型新自由主義モデル」「大きな政府か小さな政府か」と国民に突きつけ、自らの失政の自己合理化をこそ目的としてきた、政治のための政治の結果でもある。▲世界が注目する米国の大統領候補をめぐる予備選は、オハイオ州などの投票を前に、サブプライム問題や医療保険制度の改革など、これまでの「世界のアメリカ」から、国民経済や国民生活を正面に据えた政策論議へと向かっている。湾岸、アフガン、イラク戦争と続いたアメリカの人々がどのような選択をするのか。アメリカ社会そのもの、民主主義もまた内実と行方が問われ、歴史的試練を迎えている。


(六)

 
2008年3月10日号(月曜日) 948号

 2月19日、自衛隊の護衛艦『あたご』と漁船『清徳丸』が衝突。未だに漁船乗組員の2人が行方不明のまま、今日まできている。この事故は、いまや石破防衛大臣の進退問題にまでなった。虚偽、責任逃れ、隠蔽ではないかと思えるような、二転三転する防衛省の報告。まるで戦中の大本営発表。体質が変わっていないのではないかと錯覚するほど、『自己弁護』詭弁が過ぎる。ここまできて石破大臣は、責任の形、あり方と、辞意を拒否。単に、辞めたくないだけに見えるのだが。▼最近の経営陣は、福田内閣の経済政策が無策すぎるから、景気が悪いのだ。我々は被害者だ、との言い方。労働者の賃金を抑圧、雇用形態の破綻、非正規労働者、ワーキングプアといわれる人々を生み出したのは、利潤追求のみ追い求めた彼らではないのか。彼らの責任はどこにいったのか。▼石原都知事の『新銀行東京』の問題もいかがか。1000億円を出資、設立したが、融資の焦げ付きなどで、追加出資が400億必要だというのだから、たいしたものだ。都民の反発を受けると、都民はわかっていないのだから、議会答弁を聞いて理解してほしいと発言。旧経営陣だけの責任かのような責任転換。ではその経営陣を選んだ責任はどこにあるのか。石原都知事は責任をどうとるのか、未だに不明だ。責任ある立場の人間の責任が最近とみに不明確なのは、我が国の気風なのか。


(森)

 
2008年3月25日号(火曜日) 949号

 円高、株安が止まらない。円は12年ぶりに1ドル90円台に急上昇し、株価も12、000円を割る展開。米国を唯一の頼みに、輸出中心型経済に転換し、外需に支えられてきた景気は減速して深刻な不況局面に入る状況。サブプライム問題を契機とした金融市場の信用収縮を受け、昨夏頃から始まった投機資金の資源市場へのシフト換えによる石油等の資源高騰は、国内の物価を急上昇させ先が見えない。▼危機を誘発した米国では、連邦準備制度理事会(FRB)の2度に亘る政策金利の引き下げ、欧州中央銀行と協調した「通貨供給量の大幅増」というメッセージにも反応せず、一段とドル安、株安が進み、実態経済も傷ついて景気後退が深刻化している。世界の資金が米国から逃げ出している現在の事態は、明らかな米国売りだが、政策的には手詰まりでドル基軸通貨体制の終焉、多極化時代の到来が指摘される状況だ。▼ドル安と米国景気の減速が輸出企業を直撃する我が国では、さらなる不況の深化は避けがたい。ドル安は資源輸出国にとっては収入減となるため値上げは必至。円高メリットが得られず一層の物価上昇が懸念される。春闘が物価上昇にも満たない状況にあるだけに、国民生活が一層苦しくなる状況にあるだろう。一刻も早く政権を交代し、多極化時代に対応しつつ、小泉改革によって引き裂かれたセーフティーネットを張り替え、「安心と信頼」の社会作りが急がれる。


(M)

 
2008年4月10日号(木曜日) 950号

 昨年5月、イギリスのブレア首相退任にあたり、アメリカのブッシュ大統領はこれを惜しんで「ブレア氏は、政治家には珍しく約束を守る人物だった」と褒め讃えた。ブッシュ自身の評価は別にして、一部政治家の二枚舌や無責任ぶりは目に余るものがある。年金問題で、野党のやり玉に挙がっている舛添厚労大臣は、「年金記録は最後の1人まではっきりさせる。いのちがけで実現したい」と大見得を切ったが、約束期限の3月末に至るも持ち主の特定困難な記録を2千万人強も残しながら、「公約は守った」と居直っている▼「後期高齢者医療制度」が4月1日施行され、お年寄りの悲鳴が聞こえる。小泉首相時代の2006年6月、自・公両党の強引な国会運営で成立した医療制度改革法の一環としての制度改悪である。人口の1割(1300万人)を占める75歳以上の全高齢者、64〜74歳の一定の障害のある方を対象に、保険料の徴収と大幅アップが狙いである。保険料を1年以上滞納した人からは保険証を取りあげるなど、生存権に抵触する重大な内容を持っている▼先の参議院選挙で与野党逆転を実現したが、この力は大きい。「ねじれ国会」などと言われるが、小泉、安倍、福田と続く内閣では重要法案が自・公により次々と強行採決されたが、参院の野党多数の力がこの流れを止めた。来る衆議院選挙で政権交代を実現し、真に国民の求める政治を実現したいものである。


(風)

 
2008年4月25日号(金曜日) 951号

 10日発表の連合08春闘賃上げ集計結果は、平均賃金方式で5872円、1・96%と昨年をわずかに上回った。課題の社会的分配の歪みや格差の是正の実現という観点からは如何な総括か▼3月29日、東京・九段の中学校を会場に「反貧困フェスタ2008」が開かれ、そのひとつ「シンポジウム・貧困と労働」に高木連合会長も出席。「非正規雇用問題を解決しない限り貧困問題の是正はない。労働者派遣法の抜本見直しや最賃の大幅引き上げが必要」と訴えた。会場は参加者で溢れていた▼法制度が水準を規定する賃金は、最低賃金と公務員賃金。「公務員並」は社会的な労働条件の目安でもあった。労働基本権制約の代償措置に制度的に濾過されたものだが、「公務員並」が、だからこそ公共性に開かれる契機も−基本権制約の問題とは別に−持ち得たのだろう。そして最賃は「労働分野の最後のセーフティネット」。憲法の生存権においてナショナル・ミニマムを底支えするはずが、昨年の改定で全国加重平均14円増の687円。労働側はあまりの低水準に50円以上引き上げを求めた▼OECD対日経済審査報告書は「二極化の進行は低賃金、短い職務経験、人的資本の改善・強化の機会が限定された人々で構成される大きな階層を作り出した」と指摘。「反貧困」への連帯の内に「公務員賃金の社会的合意」がどう公共性へ開くか。労働条件「底下げ」歯止めはこれからだ。


(岳)

 
2008年5月10・25日号(土・日曜日) 952号

 7月7日〜9日、北海道・洞爺湖においてG8サミットが開催される。世界は大国だけのものではない。アフリカ諸国との対話等も予定されているように、サミットは成熟した地球市民社会に向けた時代の要請に応えるものでは最早ない。全水道はこのサミットに向け、「水は国際公共財です」「いのちの水は公共サービスで」と訴えるキャンペーン活動に取り組む。▼米、英国等では今、ボトル水規制の動きが広がっている。昨年6月、サンフランシスコ市長が税金の節約と環境保護を目的に市役所や出先機関でボトル詰めの水の購入を禁止。ニューヨーク、ロンドン市長も「これからは水道水を飲むように」、プラスチックボトル製造には膨大な石油が必要、環境への影響は水道水の300倍に及ぶと訴えた。仏でも06年頃からボトル水飲用の習慣が変化、水道水飲用率は59%とボトル水の飲用率を18%上回ったとの国民意識調査が公表されている▼中国・四川省の大地震、ミャンマーのサイクロンと大規模自然災害が相次いでいる。被災は貧困に苦しむ人々に集中、「人間の安全保障」を標榜しながら、裏腹に危うく脆い社会の姿を露呈する一方、この国は宇宙の軍事利用を示唆、75歳以上の後期高齢者には追徴を求めている。道路、環境、医療と議論は飛び交うのだが、どこに向かおうとしているのか、行方は定かではない。この星の生命体は、収拾困難な自己分裂的状況を抱えこんでしまったかのようだ。


(六)

 
2008年6月10日号(火曜日) 953号

  6月8日に行われた沖縄県議選で、自・公の与党は敗北し過半数割れを起こした。与党の県政下にあっての過半数割れは、初めてのことだそうだ。沖縄の地から、はっきりと政府・与党に対するNOという明確な意思が示された。基地建設容認の県知事に対する反発もあるが、やはり、この間の後期高齢者医療制度問題やガソリン税の問題、米兵の起こした事件・事故、教科書検定問題など政府に対する不満が爆発したのだろう。▼民主党は選挙結果を受け、後期医療制度の廃止を強く求めている。だが、政府は選挙前よりはトーンこそ落としてはいるが、選挙前の修正・手直しには応じるが廃止はしないというスタンスに代わりはないようだ。ガソリン税再値上げ後の山口の補選、今回の沖縄の選挙結果で紛れもなく直近の国民の意思が示されたが何ら自らの姿勢を正そうとはしない。これがこの国の長期政権を担ってきた自民党の今の姿である。▼参議院で民主党や社民党など、野党が協調して後期高齢者医療制度廃止法案を成立させたときには採択拒否を行う。小泉政権下で得た絶対多数の強行採決時には、民主党を批判していたが、参議院では同じ行為に対して、横暴だと批判する。存在意義まで問うて批判し、あれだけ偉そうなことをのたまわっていたのに、である。今こそ、国民が自ら国のあるべき姿、方向性を考え、政治を自らのものとしなければならないときはないのではないか


(森)

 
2008年6月25日号(水曜日) 954号

  昨年1年間の全国の自殺者数は、3万3093人で10年連続で3万人を超えた。過去最悪だったのは03年で、昨年は2.9%ほど増加し03年に次ぐ多さだと言う。特に、年代別では60才以上が8.9%、30才代が6.0%と増加が目立ち、両世代は過去最多。現在の日本社会の現状を写しているように思える。▼この10年、米国や日本の経営者団体の要請を受け、「市場原理と自己責任型」のアメリカ社会をモデルとした社会制度が目指されてきた。橋本「6大改革」がグランドデザインで、小泉改革はこの路線を忠実に実行して貫徹したもの。特に、社会保障における給付の減と負担の増、減税の廃止、派遣労働の全面的自由化等の施策が大きなダメージに。▼金融市場が信用を失い、行き場を失った膨大な投機マネーが資源市場に流れ込み、世界は不況の中で急激に物価が上昇する最悪の展開。大手企業の輸出を第一義とし、食料を含む資源を輸入に頼る国家として形を作ってきた我が国は、この影響を最も大きく受けざるを得ない。▼すでに倒産件数が毎月1000件を超え、食料等の値上ラッシュも続く。切り詰められるものは切り詰めても、所得の減少と物価上昇がそれを上回る。最早、個人の努力では限界に達している。早急に政権交代を図り、セーフティネットを具体的に張り替え、投機マネーの暴走を止めない限り、国民生活の安定・安心は図れない。


(M)

 
2008年7月10日号(木曜日) 955号

  鳴りもの入りで開催された洞爺湖サミット(主要国首脳会議)は、これといっためざましい成果を挙げることなくも閉会した。食糧、原油価格の高騰、環境・気候変動、開発・アフリカ問題を主要テーマに3日間の論議が行われたが、主要8カ国(G8)以外の新興国もそれぞれの主張を行い、論議のかみ合わない部分も多かった▼サミットでも大きな関心を集めた地球温暖化問題をめぐっては、今日、様々な論議がある。地球温暖化の原因が果たしてCO2にあるのか、また、本当に地球は温暖化しているのか、「京都議定書」を完全に実施しても、削減されるCO2は微々たるもので、あまり効果がない、という意見まで出されている。2007年に「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が提出した「第4次評価報告書」では、「化石燃料の使用が地球温暖化の主因と考えられ、自然要因だけでは説明がつかない」としているのだが…▼このような中で、化石燃料に代わって、CO2を増やさない原子力発電所建設を推進しよう、という宣伝が電力会社から積極的に行われている。また、国際的にも環境ビジネスといわれるような、環境問題を儲けのために使おうとする企業が目白押しである。政府、自治体、マスコミ、企業が一体となって温暖化、CO2問題を取り上げ、対応を国民に求めているが、この内容についても冷静に見ておく必要があるのではないか。


(風)

 
2008年8月10・25日号(日・月曜日) 957号

  「日本に貧困があると知ってしまえば、放置することは許されなくなる…政府は、ジニ係数で格差を算出することがあっても、貧困状態にある人たちの数は調べない」(NPOもやい/湯浅誠氏・連合ホームページ)。政府は確信犯に日本社会の貧困を隠してきた。だが「貧しさ」が絶えず再生産されることで一方の「豊かさ」が支えられている現下の市場至上システムに孕まれた派遣労働や最低賃金の現状が「反貧困ネットワーク」などの取り組みの中で社会問題化、知らなかったことにして過失を主張する「故意の不作為」はもう許されない▼8月6日、08年度地域別最低賃金の引き上げ目安が中央最低賃金審議会に報告された。目安額は、Aランク15円・Bランク11円・Cランク10円・Dランク7円。生活保護水準との乖離解消の一定の道筋も示された。連合の要求は50円程度の引き上げであり、「低所得層の増大とその生活が物価上昇によって大きな影響が出ていることを考えると、不十分」だが「労働者側が底上げの必要性を強く主張した結果」(連合)ではある▼08年人勧は所定内労働時間の短縮を勧告。08人勧が実施されれば労基法を上回る労働時間が法制され、労働時間の脱規制の現状に一定の歯止めをかけるはずだ。一部報道の“中小企業に先駆ける公務員厚遇の批判を招かないか”と揶揄するむきは、公務や民間に横行する不払い残業の実態に「知らないふり」なのだろう。


(岳)

 
2008年9月10日(水曜日) 958号

  洞爺湖サミット、地球温暖化対策、新内閣組閣発足と一連のパフォーマンスにも関わらず内閣の支持率は低迷、国民世論を背景に与野党拮抗、窮余の策と党派の都合を強要しようとする公明党の狭間で福田自・公内閣は倒れた。安倍首相に続く無責任ぶりに7割の国民が怒り、客観性を標榜する首相の下で無政府状態ともいえる状況が続いている。▼当の自民党は突然の辞任劇を受けマスコミの力をかり開かれた総裁選挙を演出。劇場型の政治の復活で感心を買い求心力を回復しようとしているが、同じ手法が二度三度と通用するとは思われない。▼「日本の底力」「あたたかい改革」「心の通った改革」「チェンジ」と何がしかの変化が呼びかけられているが、なりふり構わぬ経済的上昇意識を「活力」と読み替え、「万人の万人に対する戦い」を社会の基態と姿勢は新・旧共根深いものがあると思われるからである。「国民の目線」もこの政治の世界では、批判の対象者、「非国民」探しに終始することに他ならないことも教えられた。▼高度成長期はそれでも多数がこの「自由と民主主義」に参画できたが、今日の状況下でそれは格差や社会不安を生み出す原因そのものに転嫁してしまっている。非正規労働者が1800万人を数え、非正規として「初職」に付いた者の割合は、この間、男性は31%に、女性54・3%と急増した。若者の未来を犠牲にしたこの20年間の政治に決着を付けるべき日も近づいている。


(六)

 
2008年9月25日(木曜日) 959号

 中国国内で牛乳にメラニンが混入、粉ミルク等の原料に使われ乳幼児に健康被害が出ている。国内だけでは収束せず、お隣の韓国では乳製品の全面輸入禁止になり、日本でも国内の企業が輸入している菓子パンやお菓子などが自主回収されている。▼「毒餃子に続いてまたか」とは思うが、日本国は「中国はひどい国だな」と「対岸の火事」で、はたしてすむのだろうか。国内では、政府が輸入した備蓄米のうち、食用に使えない米を工業用などの糊として再利用するとしていた汚染米が、米製品の原材料として流用されていた。日本酒を始め様々な米を原材料にする製品に使われ、被害は拡大し果ては病院、学校の給食などにも使われていた。▼農水省は備蓄米の販売には積極的に売り込んだが、売った後の流通についてはそもそも把握すらしていなかった。テレビの報道では、国内の工業用糊製造工場では原材料に米はほとんど使っていないという。責任は無いと発言した次官が免職、農水相は辞任。▼9月24日、自民党総裁になった麻生氏は民主党について聞かれ「責任政党を自称する政党が代表を選挙もせずに決めて…」と発言。二代続けて総理が政権放棄、解散もせず民意を無視、自民党総裁がしていい発言なのだろうか。責任政党とは何なのか、形式を整えれば責任を果たしたことになるのだろうか。そもそも日本には責任政党、責任ある政治家が存在するのであろうか。


(森)

 
2008年10月10日(金曜日) 960号

 10月1日午前3時頃、大阪市の個室ビデオ店で火災が発生し、「就寝中の客」15人が死亡した。水曜日という曜日からは恒常的にこの店で寝泊まりしている人がいたと考えられる。厚労省が昨年7月に発表した実態調査では、「ネットカフェ難民」は5400人いるとしているが、実際にはそんな数ではないだろう。個室ビデオ店、ネットカフェなどに寝泊まりしている人の多くは日雇い派遣で収入を得ているそうだが、年収は160万円に達せず、生きていくだけで精一杯の額である▼地域住民にとって欠くことのできない市立病院が休止に追い込まれ、社会の耳目を集めた。地域では代替のきかない393床の総合病院休止は地域医療崩壊の象徴的な出来事で、原因は財政難と医師不足だとされる。小泉構造改革により、社会保障費が5年間で1兆1千億円削減されることとなり、すでに昨年度から年間2200億円のカットが行われている。自民党厚生労働部会では族議員から「医療崩壊はわれわれの政治生命に直結する」との声があがったそうだ▼国民の生活破綻が拡大するなかで、この道筋を作った小泉元首相は解散総選挙を前にさっさと議員引退を表明した。後釜にはしっかりと自分の二男を据えているところがいかにもと思わせるが、小泉構造改革により生活をメチャクチャにされた国民はたまったものではない。きたる総選挙は政治を変える千載一遇のチャンスである。


(風)

 
2008年10月25日(土曜日) 961号

「中産階級は経済が成長するにつれ自然発生的に誕生するのではなく政治によって『つくられなくてはならない』」(「格差はつくられた」/早川書房・08年6月)とノーベル経済賞のポール・クルーグマン教授。「非常に平等主義的、民主主義的ですべての人々の生活水準が高い」80年代のスウェーデンが「社会経済の完璧なモデル」(ニューズウィーク10・29号)という▼社民労働党政権下で社会保障制度や税制を整え、一人当たりGDP成長率を引上げ、失業率と物価上昇率を減少させたスウェーデン。その対極アメリカの格差拡大は、グローバル化や技術革新が原因ではなくネオコンなど「保守派ムーブメント」で「政治の右への極端なシフト」「平等を促進した規制・制度が損なわれたことが決定的」▼9月以降の世界金融危機にサッチャー、レーガン以来の新自由主義は持続不可能。この30年の間アメリカで富裕層収入や遺産相続の大幅減税と福祉の破壊、企業役員の空前の高報酬化と賃金や退職金・医療手当を保障した「デトロイト労使協定」破棄など労組弾圧、そして戦争が続いた。あげくこの“貧困大国”発の危機に世界が“社会崩壊の危機を孕む未知のリスク”に直面する事態か▼「組織率30%以上でカナダ、イタリア、西ドイツに伍し政治の舞台では屋台骨であった」60年代までのアメリカ労働運動。いまや教授は「労組の再活性化を促すことは進歩的な政策の重要な目標」とさえいうのだが。


(岳)

 
2008年11月10日(月曜日) 962号

 アメリカの大統領選は当初の予想どおりオバマ氏が圧勝した。共和党陣営は投票日が近づくにつれ、敗戦処理を意識してか低所得層への減税や再分配政策を社会主義と揶揄し、旧来の保守の伝統的な手法で牽制した。しかし、それはサブプライム問題に発した世界経済の破綻の前に通用することはなかった。国際競争力を失いつつある米国経済はかつてない深刻な事態に直面している。▼言うまでもなく元凶は新自由主義政策である。ブッシュ政権の高額所得者減税、ITバブル、イラク戦争特需等と社会の金融化が結びつき、架空の需要や幻想を膨張させてきた。金融派生商品と言われるものの契約総額は516兆ドルと実に世界総生産66兆ドルの10倍にも達した。米国の法人利益総額に占める金融法人の割合は、戦後には10%未満だったものが02年には45%に、さらに企業の金融費用の支払いは70年代の30%前後から90年代には70%と倍増しているという。▼古き良き時代の自由主義とは異なり、過剰な貨幣は行き場を失い、社会の効用とは別に、自由市場の下で投機や寄生性を強め奇怪な経済を作り上げてしまった。就任演説で「米国の真の強さは、軍事力や経済的豊かさではない。その理想の持つ力なのだ」と「自由の国」アメリカの価値を体現したが、この現実にどう立ち向かうのか。自由とともにある公正や平等の価値の実現へ、新たな歴史を切り開く我々の闘いも求められている。


(六)

 
2008年11月25日(火曜日) 963号

 日本の政治が政局を巡り混迷の度合いを深めている。選挙管理内閣として発足した麻生内閣が、世界金融不安による世界的不況の風を好意的に受け止め、「政局より経済対策」と解散を先延ばしたが、追加支援対策である第2次補正予算案は来年1月の通常国会に先送りされた。「年末は物いりだ」「中小企業の資金繰りを万全に」と自身の会社経営経験を強調し、中小零細企業への支援を期待させたが、年の瀬に中小零細企業への支援は見送られた。「1次補正で大部分がまかなえる」ので、2次補正は年度末で間に合うとのことから経済対策優先から政局優先へといつのまにか舵が切られたらしい。▼金融不安発祥元のアメリカを見るとオバマ次期大統領は閣僚人事選考の真只中だが、異例な早さで経済閣僚を決定し、来年1月20日の就任直後に景気対策を打ち出すと予想されている。必要なときに、必要なことを、できるように対応する意志がある。▼日本はかつて、経済は1流だが政治は3流と言われた。経済はそれなりの位置で落ち着いたのだろう。だが、政治はこの間、迷走し没落の一途をたどっている。他国をうらやましがっても仕方ないが、必要なときに必要な対策を打てる程度の政治を求めるのは分不相応なのだろうか。政治家自身の政治的身分のためだけの政治からいつ日本は脱却できるのだろう。この国の有り様を含めて今、政治が一番問われているのではないだろうか


(森)

 
2008年12月10・25日(水・木曜日) 964号

 先日行われた、狭山事件の再審請求集会で冤罪がテーマとなった。「こうして嘘の自白は作られる〜志布志、氷見、狭山をつなぐ冤罪の構図」と題するシンポジウムでは石川一雄さんをはじめ、それぞれの事件の被害者が「自白」に至るまでの警察、検察のやり口を詳細に語った。無実の者が言われなき罪を被せられ、獄中に繋がれて国家によって人生を台無しにされるという冤罪の恐ろしさが、体験者から生々しく語られた▼裁判員制度が来年5月に始まる。これに向けて、有権者から無作為に選ばれた約30万人の裁判員候補に通知がされた。最高裁が設けた特設電話には、通知を受け取った候補から辞退がらみの相談の電話が多数あったという。裁判員制度などの前に、取り調べの可視化や代用監獄の廃止など冤罪を産む要因を取り除くことが先決であろう。密室で行われる肉体的、精神的な拷問や不当な取り調べを止めさせることこそが必要である▼ある法務大臣は死刑執行について独自の持論を展開した。「大臣によって死刑執行したり、しなかったりするのはおかしい。自動的にできないものか」。この大臣はその考え方にもとづき、2ヶ月に1回のペースで執行命令書にサインをした。裁判員が重罪者も対象としていることも考えねばならない。裁判員制度に冤罪の問題、死刑制度が加わった時、裁判員の持つ意味は極めて重い。否が応でも国家権力の一端を担うことになり、人の命を左右する立場に立つことになるのである。


(老)

 
2009年1月25日(木曜日) 966号

 「100年に一度」。世界金融危機に資本主義パラダイムシフトは如何と巷間に論は溢れる▼例えば100年前、1909年に亀戸の東洋モスリン「男女職工800人」は賃上げ要求で同盟罷業、詩人と画家の「パンの会」を社会主義集会と誤認し巡査大挙出動、ロシア10月革命は8年後だ▼29年の世界恐慌、ファシズムと戦争を経て49年、占領下に労組組織率は55・8%。ドッジライン実施、NATOと中華人民共和国が成立。2年後に全水道が結成された。69年国際反戦デーは60万人が行動、佐藤訪米に62単産がスト決行。経済白書は「豊かさへの挑戦」、水俣病裁判が始まった。79年サッチャーが政権へ、イランで革命、韓国の朴体制が終わり、ケ小平は猫とともに市場経済へと大号令。89年、ベルリンの壁崩壊、株価39,800円を頂点にバブル終焉、連合が発足した。国際資本取引を完全自由化した1年後99年、WTOシアトル会議にNGO数万人がデモ。経団連は「自己責任原則と市場原理」「大胆な規制改革の断行」、小渕内閣は「民間ができないことのみ政府がやる」「企業は自立した個人が契約で一定期間雇用される『場』」と提言。そして09年へ「派遣村」が年を越した▼65年前IMF協定の年、K・ポランニー「大転換」は労働・土地・貨幣が「擬制的に商品化」される市場システムの限界を指摘。「100年に一度」。「擬制商品」の市場への倒錯的な包摂はついに破綻か。オバマは「われわれはついにここまで来た」と演説したのだが。


(岳)

 
2009年2月10日(火曜日) 967号

 1月30日、「水の安全保障戦略機構」第一回執行審議会が開催された。機構は自民党の同名の研究会による最終報告を受け、「チーム水・日本」の中核組織、水に関する権威ある組織として構想されたもの。超党派を旗印に森元首相を会長に選任、「日本水フォーラム」が事務局を担い、超党派の国会議員、経済界、市民団体等、官民各分野の団体、学識者、有識者の参加、関連12省庁による「水の安全保障連絡会」の設置、健全な水循環地域の創出をめざす「流域水管理協議会」の設置も展望されている。民主党も昨年9月、『次の内閣』の下に水政策プロジェクトを立ち上げ独自に水政策の検討を始めている。自民党とは異なり、民主主義の拡充や市民、国民の目線に立った検討と政策立案が期待される。全水道はこれまで一環して総合的な水行政の確立を求め、そのためには水は公共のものであることを明示した水基本法が必要であることを訴えてきた。政治による水問題への関心の高まりは温暖化による世界的な水・環境の危機が叫ばれる中で当然の事であるが、同時にこの間、「水危機」や水道普及率・水へのアクセスの向上を標榜し民営化や水の市場化が目論まれ、混乱や政治的対立、危機を招いた経験が教訓化されることが不可欠である。我々の基本法は生存権を明記した憲法理念を補強し、いのちの水、水道事業を国民のものとし、持続可能な社会を求めるものである。職場での日々の労働に基づく我々の水政策を掲げ、取り組みを強化していこう。


(六)

 
2009年2月25日(火曜日) 968号

 第81回アカデミー賞が発表され、イギリス映画の「スラムドッグ$ミリオネア」(ダニー・ボイル監督)が作品賞を含む8部門を制した。この映画はインド西部ムンバイのスラム街を舞台に、スラムで育った少年が賞金獲得へインド版「クイズミリオネア」で、一攫千金をめざし、後一歩のところで不正疑惑で警察に連行され・・・という作品らしい。▼インド国内からはインドを舞台にした映画がオスカーをほぼ独占したことで喜びの声とともに、映画の題材を問題視して批判する意見も出ている。スラム街の実情、物乞い、売春、犯罪を描き、インドのイメージを悪くすると憤る人もいるとのこと。▼一方日本では、短編アニメーション部門で「つみきのいえ」(加藤久仁生監督)と外国語映画賞で「おくりびと」(滝田洋二郎監督)の2作品が受賞、オスカーを手にした。日本映画界史上初めて複数作品がアカデミーに選ばれたらしい。政治、経済と悪いニュースばかりの日本で久々に明るいニュースと国内では喜びの声があがっている。映画に疎い私は知らなかったが、この2作品は中々評価を得ている良い映画らしい。▼悪いニュースの代表として政治、経済が使われるようにいつからなったのだろうか。これ以上の格差の拡大を許さず、勤労国民を基盤とする政権樹立をめざし、政権交代の実現へと我々の体制の確立と奮闘がいま求められている。2作品のアカデミー賞受賞に続き、明るいニュースとして国民へと届けたいものである。


(森)

 
2009年3月10日(火曜日) 969号

 第二次大戦敗戦から64年目を迎える。アメリカ軍はすでに戦闘能力をを喪失した日本本土に、最後の打撃を加えるべく大規模な爆撃を加えた。中でも1945年3月10日未明から東京下町に加えられた無差別の大空襲は、死者10万人、負傷者11万人、焼け出された人100万人という甚大な被害をもたらした。忘れてはならない戦争の爪痕だ▼アメリカのオバマ新大統領が就任演説で、アメリカ建国以来の先人たちの偉業を讃えた。その中で次の言葉が反響を呼んだ。「我々のために、彼らは(米独立戦争の戦場の)コンコードや(南北戦争の)ゲティズバーグ、(第二次世界大戦の)ノルマンディーや、(ベトナムの)ケサンでの戦いで、死んだ人々だ」(毎日新聞)のくだりである。ケサンはアメリカのベトナム侵略戦争の中でも、最大の激戦地となった拠点基地であった。この戦闘に勝利できず、ベトナムから撤退する契機となったのだが、オバマ新大統領が、敢えて就任演説でケサンを引用した意図は何か?ベトナム戦争を「正義の戦争」と考えていなければ幸いである▼悠久不変なものと日々刻々変化するものを「不易流行」というが、今日の目まぐるしく変化する事象は流行そのもの。政治、社会、経済のどれをとってもあっという間に変化し、今日正しいと思ったものが明日どうなるか分からない。こういう時代こそ「不易」に則って物事を見る必要があるのではないか。


(風)

 
2009年3月25日(水曜日) 970号

09春闘先行グループが18日に妥結、連合の第1回集計(19日)は平均5830円・1・94%と昨年同時期比で541円低く回答154組合中ベア獲得は29組合。翌日のマスコミでは「事実上の賃下げ」(朝日新聞)、「総崩れ09春闘」「賃金抑制、消費に冷水」(読売新聞)で「春闘結果は不況から恐慌に向けての第一歩になってしまうと危惧(内橋克人氏)」(毎日新聞)など評価は厳しい▼そこに「日本、マイナス5・8%成長―09年IMF再び下方修正」(20日付日経新聞)と米国より大きい経済悪化も予想されている。昨年の世界的な経済危機の露呈以降、非正規労働者「切り捨て」から正規労働者への雇用不安が広がる中であらわになった経済、雇用システム、政治の劣化の同時進行。「まじめに働いて」いても「安心して食べていける」かどうかにさえ怯えなければならないような社会の劣化だ▼しかし同じ18日、全国ユニオン組合員で日本マクドナルド店長の高野廣志氏と日本マクドナルド株式会社との間で争われた「名ばかり管理職」問題を浮き彫りにした裁判に、高野氏の主張を全面的に認める和解が成立。「多くの人たちの支援を背に、巨大グローバル企業に闘いを挑み続けてきた高野氏に敬意を表する」と連合談話▼転換点に立つ労働運動の座標軸に印した一歩の前進。私たちは問われているだろうか。「連帯しながら生きていくという言葉の意味を取り戻し」「そのことを実行に移せる共有された世界を築こうとする」ときに「現代と違う未来をみることができる」(「怯えの時代」内山節/09年2月)。


(岳)

 
2009年4月10日(金曜日) 971号

 先にトルコのイスタンブールで開催された「第5回世界水フォーラム」では、「水は人権」を閣僚宣言に加えるかどうかが議論された。最終的に前回同様、「水はニーズ」であるとの表現に留まっているが、ウルグアイ政府の呼び掛けに応えた20ヶ国を超える国々が「水は人権」とする「補足閣僚宣言」を発表。また9ヶ国が国際水企業を中心として運営されてきた水フォーラムの正統性に疑問を呈し、国連ミレニアム目標に立ち返り、「グローバルな水フォーラムは民主的に参加を保障し、公正で透明性があり、社会的内包を保障するとの原則のもと、国連の枠組内で開催されること」を提案する宣言に署名する等の新たな動きも見られた。国連「世界水の日」宣言にもとづく先の政府要請行動では、ヨーロッパの水メジャーを中心とした水管理に対し、アジアの視点、日本の水政策の経験から水のガバナンスについて地域で活用可能な提言として、日本の発意でユニセフが取りまとめた「総合的水資源管理のためのガイドライン」についての報告があった。職場・単組の行動では厳しい状況もあるが「水道事業の公設・公営は堅持」「水は製品化してはならない。水基本法の制定に向けて真摯に取り組んでいきたい」等の声も寄せられた。水政策を公正な社会、労働を中心とした福祉型社会の構想、平和・環境・人権を求める闘いの一環として、粘り強く取り組みを進めよう。


(六)

 
2009年4月25日(土曜日) 972号

 アフリカ・ソマリア沖での海上自衛隊による海賊対策へ後付の根拠となる対策法案が4月23日に衆議院本会議で政府・与党の賛成多数で可決し通過した。参議院での否決、法案の未成立を望みたいが、民主党は審議を引き延ばさず、衆院での再可決により今国会で成立する見通しになっている。▼そもそも何故自衛隊なのか。先頃行われた平和Fの「戦争する国作りを許さない集会」で、ピースデポ副代表の田巻氏は、そもそもの問題点であるソマリアの貧困が起因による海賊を武力で殲滅するのではなく、根本の貧困問題の解決が必要、被害の軽減は海上保安庁による取り締まりが必要、海上保安庁のアジア地域での活躍と実績、近隣諸国との連携をあげ、政府の対米追従の一環で、アフガニスタンに派遣しやすくし、各国の参加しやすい状況作りに荷担しているだけではないかと指摘。▼ブッシュの始めたテロとの戦いは、未だに終わりが見えず、武力によるテロの殲滅は失敗しているにもかかわらず日・米政府にはその様な認識はないようだ。▼何故テロなのか、何故海賊なのか。その根本を解決しないままでは、今後も世界は同じ問題で犠牲者を出し続けるだろう。▼武力を否定した平和憲法を持つ日本が武力を求め、憲法違反をも問題視せず、寄せられている期待と求められている役割を一部列強の思惑のみで無視し続けていては、いつまでも国際舞台での影響力は持てないだろう。


(森)

 
2009年6月10日(水曜日) 974号

 ついに国有化である。アメリカGM(ゼネラル・モータース)が経営破綻、これまでGM支援に500億ドル(5兆円)を「注入」し大量の失業者が出るためにそのまま倒産させるわけにないかない米政府は、再建へ株式を60%取得。最大株主に。そして全米自動車労組(UAW)が17・5%。労働組合が二番目の株主だ▼この事態を「喜びでいっぱい」と歓迎したのはマイケル・ムーア監督。国有化に「われわれ(米国民)の方がうまくできる」と断言(東京新聞・6/3付)。監督のデビュー作「ロジャー&ミー」(89年)は、GM工場の人員削減が地域社会を荒廃させている一方、高給を食むGM役員や地域再生に無責任な資本家・富裕層の実態をドキュメンタリーしている。地域社会の疲弊が貧困層を対象としたサブプライム・ローンを生み、バブルがはじけた金融危機でGMが破産。「わが亡き後に洪水は来たれ」▼GM労働者の賃金が高すぎるなどとバッシングされたがそれは年金・医療費負担を含んだ賃金だから。もちろんUAWの闘いの成果であった。「資本は、社会に強制されなければ労働者の健康と寿命に何らの顧慮しない」。アメリカには医療の国民皆保険などなく、それで改革への希望をうけてオバマ大統領が生まれた。「まだない」からこそ「存在」する希望。困難な現実をうけとめ向きあう想像力の源泉でもある。「我々の方がうまくできる」。海の此方で、日本の総選挙はもうすぐだ。


(岳)

 
2009年6月25日(木曜日) 975号

 第9回水循環基本法研究会が23日に開催された。解散・総選挙が取り沙汰される中で、4人の共同座長が顔を揃え、研究例会は今回を最後にワーキンググループを設置、9月下旬に法案・政策大綱原案を作成し、11月下旬を目途に最終案を取り纏めることが確認された。メンバーにはダイオキシン・環境ホルモン国民会議や元淀川水系流域委員会委員長の宮本氏等、学者・研究者だけではなく市民運動の仲間も参加している。▲当日は、議論の取り纏めに向けてか、世界の水制度改革の実例が幅広く紹介されていたが、中でも公共信託原理に基づき、水需要の基本的ニーズを満たすために必要な水の無条件での配分と、多様な環境・生態系を社会に提供するための配分を全ての水利用に優先し「権利」として保障するとした南アフリカの水基本法が先進例として紹介され注目されていた。▲全水道は前回の例会で職場・生産点から、この間の構造改革、規制緩和が水道事業の持続可能性を脅かしていることを指摘、労働組合の社会的責任から基本法を提起するにいたった経緯について西川次長が報告したが、人類共通の課題である水政策は、「生存をかけた世界の人々の営為」にこそ学ぶべきだと改めて思い知らされた。民主党プロジェクト中間報告取り纏めの動きにあり、夏以降、政治の場で水問題も一つの画期を迎えようとする中にある。政権交代から水基本法へ。多くの人々とともに歩を進めよう。


(六)

 
2009年7月10日(金曜日) 976号

 オバマ米大統領がプラハで「核兵器のない世界」をめざすと訴えて以降、世界中で核兵器削減への動きが出てきはじめている。イタリア・ラクイラで開かれているG8サミットでは、不拡散首脳声明が採択されるなど「核兵器なき世界」へむけて意思が表明されている。▼そんな世界情勢の中、唯一の被爆国である日本では、外務省元幹部などによる、アメリカの核持ち込みに関する密約の存在がクローズアップされている。これまで、日米間の「核」持ち込み密約問題を巡っては、アメリカの公文書などにより、その存在が裏付けられている。文書まであり、破棄するよう指示したとの報道まで流れたが、政府は、今まで通り密約を否定している。▼「非核三原則」を空洞化させない運動が今こそ必要だが、自民党内からは「非核三原則」を一部見直して米国の核搭載艦船の寄港などを認めるべきだとの戯けた意見が出ている。▼極度に右傾化した自民党議員たちは、国是であるはずの「非核三原則」を見直し、核の持ち込みを容認せよと叫んでいる。▼8月には原水禁世界大会が行われる。世界唯一の被爆国の平和を求める一市民として、ヒロシマ・ナガサキの犠牲者たちを忘れず、近々行われる選挙によって、反戦平和、憲法9条を守る意思を表明し、全力で政権交代を実現しなければならない。


(森)

 
2009年8月10・25日(月・火曜日) 978号

  広島に原爆が投下されて64年が経過し、被爆体験者が年々少なくなってきている。これに伴い戦争・原爆の風化が進んでいる。そんな折に、米オバマ大統領がチェコのプラハで演説を行い、核廃絶の意志を明らかにした。「米国は、核兵器国として、そして核兵器を使ったことがある唯一の核兵器国として、行動する道義的責任がある」(5月4日。朝日新聞社)。アメリカの原爆投下には道義的責任があり、率先して地球上から核兵器をなくために行動するとのオバマ大統領のこの発言は内外に大きな波紋を巻き起こした。世論調査によるとアメリカ有権者の61%は「原爆投下は正しかった」とし、「間違いだった」の22%を大きく引き離している。広島に原爆を投下したエノラ・ゲイ乗務員は、オバマ大統領の「道義的責任」発言は間違いだとし、「戦争の早期終結のためにはやむを得なかった」とのべている。オバマ大統領の意欲的発言の実現を期待したい▼麻生首相私的諮問機関、「安全保障と防衛力に関する懇談会」は8月4日、防衛計画大綱見直しに向けた報告書を提出した。集団的自衛権の行使、武器輸出三原則の緩和などを求めたものである。インド洋における自衛艦の給油活動、ソマリア沖の海賊船対策を名目とした自衛艦派遣などを考える時、率先して国際平和活動を行うべき日本政府が、逆に戦争政策に邁進している現実は何としても許してはならない。


(老)

 
2009年9月10日(木曜日) 979号

  「命」。民主党が圧勝した総選挙、告示直前の記者会見では恒例の決意表明たる各党首揮毫に鳩山党首はただ一字したためた。「民主主義革命」。実現した“チェンジ”に菅党代表代行は自身のブログにそう書いた▼「ざっと1億円」。投票日直前、人材派遣大手パソナの会長に就任したあの竹中氏の役員報酬。03年の製造業派遣解禁の旗振り役。パソナの売上げ高はそれから2倍へ膨張、「究極の天下り」(東京新聞・9月8日)。「政権交代にしっぺ返し」「抑圧され続けた人々からの与党・政府に対する告発」と声明したのは派遣村を組織した「反貧困ネットワーク」。「天下りの根絶」は民主党マニフェストのひとつだが▼「新自由主義から社会民主主義への根本的な政策転換は政権交代によってのみ可能」。今年5月の労研全国集会にそう基調講演した北大・山口二郎教授。「人間の尊厳を無視して顧みない社会が現れたことへの怒りが、自民党を完膚なきまでに打ちのめした」と総括(朝日新聞・9月3日)、「民主主義とはそもそも革命の制度化だ」▼運動の力点は「社会の底割れに歯止め」「社会連帯」「日本社会全体で集団的労使関係の再構築」と連合の大会運動方針案。たしかに山口教授も「選挙だけが民主制ではない。国民の多様な参加が政党政治を鍛えていく」ことの急務を訴えた。結成20周年に「労働組合は何のために存在するのか」と原点に立ち返るという連合。時代の行き詰まりの中に新しく何をつくるか。「命」「革命」、もちろん、言えばいいというもんじゃない。


(岳)

 
2009年9月25日(金曜日) 980号

  戦後民主主義の下、始めてとなる本格的な政権交代を実現した鳩山連立内閣が船出をした。早々に国連の場においてCO2の25%削減、非核三原則をあらためて国是とすることを訴え、安保理は史上初の「核兵器なき世界」を目指す決議を全会一致で可決。米国のオバマ大統領は、この間の単独行動主義を自己批判、「地球規模の挑戦」に立ち向かうため「加盟国が責任を分かち合う時が来た」と、多国間主義、国連主義による前政権からの転換を印象づけた。▼世界が抱える課題は政治的な解決によってしか最終的にはもたらすことはできないとする信念は、当たり前のこととはいえ、政治の復権とも思われる新鮮さを感じさせるものだった。日本においても同様、官僚依存から政治主導への行政の転換が叫ばれている。その第一歩ともいえる今回の政権交代を、形だけのものに終わらせることなく、国民のための政治と政策への転換へと繋げていかなければならない。▼この間の政権投げだしも含めた自民党政治は、小泉改革に象徴されるように市場主義と無政府状態への接近、国家主義の間を漂流し、結局はこの社会の存続のために不可欠な「所得の再配分」機能を最大限捨象しようとするものだった。マスコミを賑わしている八ッ場ダム問題も、これまでの政官業のトライアングルによる利害政治からの転換を象徴するものである。水基本法の確立を展望し、新たな政治の舞台での取り組みの強化が問われている。


(六)

 
2009年10月10日(土曜日) 981号

  政権交代が実現し、社民党、国民新党も参加して民主党を中心とする連立政権が誕生した。世間では夏が終わり秋の風情が出始めているが、政界に季節の変わり目はないのだろうか。選挙前に鳩山民主党代表に政治献金問題が発覚し、政権を取った後は、寄付金の記載漏れ、キャバクラなどの支払いを政治活動費として報告していたなど。▼民主党だけの問題でも個人だけの問題でもなく、日本の政治には金に対する醜聞が多すぎるのではないだろうか。いつも国民の問題が政治の主役ではなく、何かをなしたのでもなく、スキャンダルが政治の大きな局面を作り出そうとしている。▼福島みずほ内閣府特命担当大臣は、政治活動費の問題でいち早く対応し、2ちゃんねるで常識人として好評価を得ているらしい。消費者庁の事務所費、某食品会社の特保取り消しなどでの大臣としての対応も好感に結びついているとのこと。▼そもそも何故政権交代が実現したのだろうか。自民党の体質や政治謀略に嫌気がさしたのだろうが、それだけなのだろうか。▼ワーキングプアなどの問題が国民の身近すぎる課題になっているときに、政治家、企業、いわゆる勝ち組のスキャンダルがつづいた。非正規労働者、正規労働者ではあるがギリギリの生活しか送れない人など、生活に不安のある人達からしたらどこの世界の問題なのか。右か左かではなく、社会を構成する一員として自覚がもっと必要ではないのだろうかか


(森)

 
2009年10月25日(日曜日) 982号

  どっこい「社会主義」は生きていたのか。「オバマの保険制度改革は社会主義」、自民党谷垣総裁の「民主党の政策を積み重ねれば社会主義政策」である。「社会主義になるとプロ野球がなくなる」との某有名選手のかつての云いと同類ではあるが▼「市場原理至上の政策を進めさせない」と亀井代表は党の役割について述べた。連帯・公正が基軸的価値に据えられ、社会民主主義的要素が盛り込まれることが必要だ。政党と住民・市民、そして労働組合の共同作業・大衆運動で新自由主義政策と決別できる▼政権交代が議会制民主政治の原点なら、超長期にわたった自民党政権の旧弊打破こそ求められる。政官財の癒着構造の破壊というベクトルにおいて「脱官僚・政治主導」は正しい。バッシングではなく、民主政治の発展の視点から政治の側の総括と行政官の役割も確立されるべきだ▼「マニフェストで国民と契約したから八ツ場ダム建設は中止」は無難な答案だ。だが、「必要としない理由」を明確にし、納得を得る「説明責任」なしでは官僚答弁に堕す。反対の声を無視して政官財癒着構造を底流に八ツ場ダム建設が進められ、住民は翻弄され続けたのだ▼それにつけても「ムダな○○」はやめてもらいたい。上から目線でない政治の「言葉」と実行が大切だ。政治の民主的発展に立って制度や仕組みは変更されるべきだ。「官僚答弁」に代わり「政治家による官僚答弁」が横行すれば、歴史的な政権交代の意義が削がれる


(巡)

 
2009年11月10日(火曜日) 983号

  沖縄米軍基地を巡り、活発な国会論戦が行われている。焦点となっている普天間基地の移設問題では、政府閣僚からは、辺野古の新基地建設、嘉手納基地への統合、県外移設などいくつかの意見が出されている。鳩山首相は「最終決定は私が行う」とのべている。沖縄問題について三党連立政権は政策合意文書の中で、「沖縄県民の負担軽減の観点から、地位協定の改定、米軍再編や在日米軍基地のあり方の見直し」を謳っている。いまこそ、米軍基地があるために沖縄県民が受けてきた、筆舌につくしがたい苦難の歴史に終止符を打つべき時である▼発足して約2ヶ月の連立政権、難題は山積している。重要課題への対応に苦慮している状況が伝わってくる。政権への支持率はまだ高いが、政策が具体化してくるにつれ、支持率は変化する。ここで重要なのは、3党による連立の意味ではないか。特に社民党は「憲法を暮らしの中に活かす護憲の党」として、政府の中で存在意義を発揮して行くべきだ。「唯々諾々」と流れに身を任せているだけでは、変化は生まれない▼10月30日に総務省が発表した労働力調査によると、完全失業率は5・3%(363万人)であり、有効求人倍率は0・43倍である。注目すべきは、若年層の失業率である。15〜24歳で9・8%、25〜34歳で7・3%と高い。有効求人倍率が低迷している中で、職がない人たちにとって厳しい冬が間近だ。昨年のような「年越し派遣村」を再来させないことも連立政権の課題である。


(老)